恋の残り香 香織Side
「彼の恋人は、美加さんといったね?
父さんと母さんは、娘の為だと言って、二人の人間を不幸にしたんだろうな…」


父親は、首を振り続ける香澄の頭をポンっと撫でるように叩くと部屋を去って行った。


「償いでも何でも、彼が私を選んだんじゃない…
彼女じゃなくて私を選んだのよ…
なのに何で今更こんな事になるのよ…」


枕をぐっと抱きしめながら一人で呟いていた。




健司が香澄を尋ねてきたので、部屋に通してもらった。


彼の気持ちなんて関係ない
私が求めてるんだから
選んだのは彼なんだから


相変わらず血色の悪い顔で、それでも笑顔を作っている。


「健司君、ここに座って」


香澄が座るベッドの隣を軽く叩いた。

健司は黙って隣に腰を下ろした。


「…この間の人は、友達?」


香澄の問いに健司は少しだけ表情を歪ませながら頷いた。


「美加、さんって…」


香澄が美加と口にすると、健司はさらに表情を歪ませ


「すいません…その話はやめてください…」


と言い俯いた。


「健司君」


香澄は健司の肩をポンっと叩き、顔を上げて振り向いた健司にキスをした。
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