恋の残り香 香織Side
玄関のドアには鍵がかかっていなかったので、香澄は空っぽになっている部屋へと足を踏み入れた。

微かに甘いコロンの匂いが漂う。

壁を伝いながら奥へ進む。

ガランとした部屋。

クローゼットの中に写真がある事に気付いた。

床にベタンと腰を下ろし、写真を拾い上げた。

見知らぬ女性の隣で、ふざけたポーズを取りながら笑う健司が写っている。

香澄が一度も見たことはない、輝くように眩しい笑顔。

隣の女性が美加だろう。

彼女も幸せそうに笑っている。


「…この幸せを、私が奪ったの?」


無意識で呟いていた。

香澄は、健司は無口で真面目で誠実で、大人しい男だと思い込んでいたが、それは違うのだと写真が語っている。

少なくとも写真の中の健司は全く知らない男だった。

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