恋の残り香 香織Side
手術の前日、香澄は健司に別れを告げた。

もう甘えたりしない、香澄はそう決めたのだ。


「健司君、美加さんのとこに戻っていいよ」


香澄がそう告げると、健司は驚いた顔を見せた。

しかしすぐに黙り込み、首を横に振った。

香澄は溜息をついて


「何でそんなに真面目に考えるの?
私の怪我だって、本当は健司君の責任じゃないじゃない。
そういうの、もう重たいんだ。
私は私だけを見てくれる彼が欲しいの。
だから健司君はもういらない」


と言い、窓の外に目をやった。

悲しいとは思わなかった。

健司はごめんと呟き病室を出て行った。

とぼとぼと歩く健司の背中を見えなくなるまで見送り、カーテンを閉めた。

母親が心配そうに病室に入ってきたので、笑いながら


「私、健司君をふっちゃった」


と告げた。

心が少し寒かったが、気持ちは晴れやかだった。
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