恋の残り香 香織Side
「あなたの足ね、元のようには動かないの」


入院して一ヶ月半が過ぎた頃、母親が涙を堪えながら言った。


「…やっぱりね」


香澄は明るく振る舞った。


「動かせないからおかしいって思ってたの。
リハビリ、頑張って損したじゃない。」


その姿を見て母親は、堪え切れなくなり病室を出た。


ショックじゃない訳がない

だけどこれ以上悲しませなくない

命が助かった代わりに足を神様にあげたと思えばいいだけのこと…

それだけの…


一人になると我慢していた涙が溢れてきた。

声が零れないように、布団に顔を押し付けて泣いた。

病室のドアが開き、香澄は慌てて布団をかぶった。


「香澄さん?」


健司の声が聞こえてきた。

香澄は布団からそっと顔を出した。

香澄の涙を見て、健司は辛そうな顔をしていたが、香澄はその訳を考える余裕なんてなかった。


「私ね、左足、元に戻らないんだって…
本当はね、分かってたの、何となく…
でも、どうしても受け入れられないの…」


泣きじゃくる香澄の手を健司がそっと握った。

香澄は健司にしがみついて泣いた。
< 7 / 32 >

この作品をシェア

pagetop