綺麗に泣く
ところ変わって保健室。
「あ、起きたー。明ちゃん大丈夫?」
「今日午後やけに元気だなーと思ったら、授業終わった瞬間ぶっ倒れたのはビックリしたよー」
まだ少し体に熱を帯びたまま、起き上がると、同じクラスの田中さんと佐倉さんがいた。
「わわ、二人がついてくれてたの?ずっと?ごめんねー、ありがとう」
「ううん、全然いんだよ!」
「それに、私たちはついてただけで、運んでくれたのは百武君だよ」
そーなんだ。
あっ、でも前売り券販売日じゃん!
「二人ともごめんね!前売り券、買いに行けなかったでしょ!?」
「それも大丈夫だよー、彼氏が行ってくれてるからさー」
なるほど。
「いいねえ、彼氏。」
「何言ってんのー、百武君がいるじゃん?」
「や、百武は幼馴染だよ」
「そーなの?付き合ってるのかと思ってた」
ガラガラっ
「あ、噂をすれば!百武くん来たし、私たちはこれで帰るね!明ちゃんお大事に」
「あ、ありがとね!バイバイ」
「明、大丈夫か?」
「おー、百武。運んでくれたんだってね、ありがとう。」
ん!と言って明は手を差し出す。
「は、何。」
「牛丼!お金はそこの鞄から取っていいからさ!ちょーだい。」
そう言われ、百武は、目を泳がせる。
「あー…わり、1人分しか売れねーって言われて。」
明らかに残念がる明を見て、慌てる。
「あ、いやでも!先輩が取っといてくれたりするかもじゃん?」
明はパッと明るくなって喜ぶ。
「だよね!取っといて下さいねってお願いしたもんね!」
そんな明を見て、単純だよなあ、とほっこりする百武。
「どーやって帰んの?おぶろっか?」
「百武が潰れるので、遠慮しとくよ。」
や、潰れねんだけど。と思いながら、まあいいか、と身を引く。
「保健の先生がね、送ってくれるって。なわなら百武も乗ってく?」
「や、いーよ。遠慮しとく。」
ガラガラ。
「お、保健の先生来たんじゃね?」
そう言って二人は入り口に目を向けたが、居たのは先生ではなく、敦さんだった。
「なに、なんかに興奮して熱出したの。」
対面一番でそんな事を言う。
「あ、いや、まあ。あははは」
照れて頭をかく明は、アレ、なんで熱のこと知ってんだろ、と首をかしげる。
「百武くんから聞いたよ。」
聞こうと思った矢先に、敦さんが答えるもんだから、心中を読まれてるのかと焦る。
「え、百武言ったの?」
「…まあ。」
さっきの百武の様子からは、そんな感じはしなかったけどなあ、と思う。
「あ、そうだ、百武くん、呼ばれてたよ。担任の先生から」
薄ら笑いでそう言う敦さんを横目で睨み、無言で立ち上がる百武。
「…変なことすんなよ。じゃあな、明。」
「え、しないよ!バイバイ」
百武が保健室から出る間際に言い残したそれを、明は自分に言われたのだと勘違いして、返事をした。