夢の言葉と約束の翼(中)【夢の言葉続編⑥】

***

どうせ、もうワシの事を気にする人など誰もいない。
もう、どうでもいいーー……。

その夜。
診療所を抜け出したワシは持っていた有り金を全てはたいて酒を買い、浴びるほど飲んだ。
全部全部忘れたくて、なかった事にしたくて、堪らなかった。


誰にも邪魔をされたくなかったワシは、町から少し離れた場所にあった古い物置小屋で飲み散らかし……。独り心にポッカリと空いた穴を埋めるのではなく、無視しようとしていた。

弱虫で、臆病で、自分独りではどうしようも出来ないのに、甘える事すら出来なくて。
泣く事すら上手く出来なくて、もがいていた。

「このまま……っ、身体の熱が全てなくなってしまえばいいのにッ……」

酒で熱くなった身体が、夜の冷たい空気に触れて思わず漏れた本音。
酒も尽き、あとはもう、冷めてしまうだけ……。
醒めてしまうなら、もう、此の世から消えたいーー……。
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