夢の言葉と約束の翼(中)【夢の言葉続編⑥】

目を、逸らしてしまった。

"全て"を受け入れる強さが、この時の僕にはまだなかったんだーー……。

そんな僕を、アカリさんはきっと察してくれていた。

そっと、右手を掴まれた感覚にも目をそらし続ける僕に、彼女はもう何も言わずに、ただメモ用紙をギュッと握らせると……。その場から静かに去って、自分の仕事場へ戻って行った。


一人きりになった通路で、渡されたメモ用紙を開いて、思わず小さな声が漏れる。

「……こんな物貰わなくても、覚えてますよ」

メモ用紙に書かれたアカリさんのポケ電の番号は、実は僕の頭の中にずっと記憶されていた。
物覚えが悪い筈の僕が、彼女が教えてくれたあの番号だけは記憶出来た。
何故だか忘れられなくて……。

でも、臆病な僕は、自分から連絡が出来なかった。
揺れる心が、僕をなかなか前には進ませてくれなかった。


胸ポケットに入れていたポケ電が震える。
取り出して確認すると、ミネアさんからのメッセージ。先日からの出張先であった事が綴られていて、最後に「早くマオ様に会いたい」と僕を求めてくれる言葉。

震える指で返信を打つ。
『僕も、会いたいです』
"今"を、ようやく見付けた"ぬくもり"を、僕は自分から手放す事が出来なかった。
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