夢の言葉と約束の翼(中)【夢の言葉続編⑥】

立ち尽くす私に、兄上はそのまま言葉を続けた。

「アランなら、僕の描いた理想を形にしてくれる。
……だから。この企画案は、アランに任せるよ!」

記憶を失くしても尚、変わらない美しい心。
愚痴も、妬みも、何も言わないで、兄上は私に企画案のファイルを渡す。
笑顔の兄上から託されたそのファイルは……、今まで手にする何よりも重たかった。


兄上の企画案を読んだ時から、その内容に込められた想いが私には分かっていた。

アカリ様と子供達への想い。
そう、家族への想いだ。
今の兄上《マオ》に眠る以前の兄上《ヴァロン》が、家族への憧れや愛おしさを形にしたもの。

……そう、気付いていた。
気付いていながら、その兄上を慰めてあげられなかった私。


「……あ〜あ、慣れない事はするもんじゃかいね。珍しくずっと徹夜してたから、疲れちゃったみたいだ。
ね、アラン。申し訳ないんだけど、今日はもう上がってもいいかな?」

「えっ、……あ、はい」

「ありがとう。じゃあ、お先に失礼します」

兄上があまりにも普通で、自然体に見えたから……見逃してしまった。
哀しくて哀しくて、寂しくて寂しくて助けを求めている時ほど、兄上が笑うのだという事を。

……
…………。
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