夢の言葉と約束の翼(中)【夢の言葉続編⑥】
行く場所なんて、なかった。
独りになりたくて、黙って屋敷を出たけど……頼る人なんて、僕にはいなかった。
持ってきたのは、ポケ電とお金と、一冊の絵本。
ポケ電は一応持ってきたけど、電源は切った。
お金と言っても僕が自由に使える金額なんて、たかが知れてる。遠くへ行く事も、何日も外泊出来るようなお金はない。
それでも、どうしても行きたい場所があった僕は夜行の船に乗ってある目的地を目指していた。
その目的地とは、持ってきた絵本の中に登場するワンシーンの舞台になっていると言われる場所。僕の1番大好きな絵本、『月姫の祈り』の中に登場するある砂浜だった。
その砂浜は現在ある人の所有地なのだが、幸いにもその人とは仕事で何度か会った事のある顔見知りで、こんな僕にも良くしてくれる数少ない優しい人。
突然電話して、砂浜へ行きたいという僕の申し出にも、快く許可してくれた。
屋敷のみんなには、何も言わずに出て来てしまった。
「今頃、心配してる……かな?」
船室のベッドに座ると、心の中の問い掛けが思わず口から漏れたが、すぐに苦笑いをして首を横に振る。