夢の言葉と約束の翼(中)【夢の言葉続編⑥】

「こんな事をされても、髪色は変わったりしません。
風邪をひかれて、服を汚してお母様に怒られて、良い事など一つもありませんよ?」

近くの井戸まで連れて行き、持っていたハンカチを濡らして汚れた顔を拭ってやりながら私はヴァロン様の顔をよく見た。

母親のアンナ様によく似た整った顔立ち。この白金色の髪と瞳さえなければ、きっとこの子は町で良い意味で評判の少年となっていただろう。


……まあ、どちらにせよ私にとってはとても好きになれない顔立ちだが。
母親のアンナ様から愛を貰えず、町の人からは疎外《そがい》され、唯一心の拠り所だったリオン様がいなくなった今、この子に味方などいない。

辛いでしょう?
悲しいでしょう?
生きていても、良い事などないでしょう?
それならば、……。

この子が居なければーー。
私の心の奥底にあった黒い想いが、拭っていた手を細い首筋に導く。が……。


「ーーきれいだね」

それはまさに、私の指がグッと首に力を込めようとした瞬間だった。
ヴァロン様が私の長い黒髪の裾に触れながら言った。
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