夢の言葉と約束の翼(中)【夢の言葉続編⑥】
***

「……お遊びは、もうよろしいですか?」

人通りの少ない静かな夜の路地裏で、地面にうずくまり、ハァハァ……と呼吸響かせるユイ様に声をかけた。

決して弱くはない。
けれど、私と彼女とでは経験も鍛錬の仕方も違う。幼少期より兄の身代わりになる為に生きてきた刻《とき》で培ったこの力に、勝てる訳がなかった。

なるべく手荒な真似はしたくなかったが、短時間で決着をつけたくて脇腹に入れた一発がユイ様にはかなり効いているようだ。脇腹を押さえて、必死に痛みを堪えている。
手加減はしたが暫く動けまい。

「もうお分かりでしょう?
これに懲りて、今後私を付け回す事もおやめ下さい」

彼女がシュウ様の命で私に付き、色々探りを入れている事にはとっくに気付いていた。

シャルマ邸には特別な訓練をされた優秀な番犬がいる。血の匂いを嗅ぎ分け、一族とその屋敷に出入りが許されている者以外の侵入を許さない。
つまり、部外者は威嚇されてしまう。
< 281 / 411 >

この作品をシェア

pagetop