夢の言葉と約束の翼(中)【夢の言葉続編⑥】
***

「……。あ!マオさん!」

約束の時間になって廊下に出ると、何も知らないアカリさんは笑顔で僕を迎えてくれる。
大好きなパァッと輝く笑顔につられて微笑み返しそうになったがすぐにさっきの事を思い出して、僕は伏せるように目を逸らしてしまった。

彼女が悪い訳ではない、と。頭では分かっている。
過去なんて気にしても仕方ないし、第一僕が旦那さんの事をとやかく言う資格も立場でもない。

……けど、嫌なんだ。
アカリさんの大切な男性《ひと》って思うだけで、モヤモヤする。


「?……マオさん。どうかしましたか?」

「なんでも、ありません……」

なんでもない、と答えながらも目を合わせようとしない僕のせいで、アカリさんとの間にシーンと沈黙の時が流れた。

今までこんな感情になった事、なかった。
自分でも、何故、何が、こんなに気に入らないのか分からない。
ミネアさんの過去の話を聞いても、言い寄ってくる男性の存在を知っても、"仕方ない"って感情が先に浮かんで……。こんなにも気になる事はなかった。
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