花咲く雪に君思ふ
今日も今日とてうようようようよ。

やれやれ、こいつらが視えないなんて羨ましいね。

あっちを見てもこっちを見ても、視たくない奴等がそこら辺を彷徨いていて、鬱陶しいったらない。

目を合わせないようにするのも、一苦労だ。

雪花を連れてくればまだマシだったんだけど、今日は子守りをしてるからね。

ほんとお人好しだよ。

たまたま通りかかっただけなのに、具合の悪い子供を家まで送って、挙げ句その子供の看病を申し出るなんてさ。

……ま、それが雪花の良いところでもあるけどね。

何て心の中で愚痴っていたら、肩に小さな痛みが走った。

「ちょっと、よそ見しないでくれる?」

「あ……悪い」

ぶつかったのは、随分疲れた顔をした、僕と同じくらいの年頃の男だった。

「じゃあ……俺はこれで……」

弱々しい声でそう言うと、男は背を向ける。

だが、僕はすかさず男の背中へと、手を振り下ろした。

そして、ばしっといい音が響く。

「あいったぁ!!」

当然だろうね。

力一杯叩き落としたんだから。

「てんめー!何すんだこのやろ!滅茶苦茶痛かったんですけど?!」

「あんた、身体中に妖魔やら小物のものの怪やらくっ付けすぎ。そんなんじゃ、いずれ死ぬよ」

「……え?」

驚きに目を見開く男に、今度は僕が背を向けた。

「まぁ、そんな事言っても信じないだろうけどね」

ものの怪というものが信じられているこの時代でも、普段から目に視えない存在を信じない人間は多い。

視えると嘘をつく人間も、同じくらい多いせいだね。

そして都合が悪くなると、霊を祓ってくれと頼みに来る奴がほんと多過ぎ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

背を向けて歩き出した僕の腕を、さっきの男がガシッと掴んできた。

それはもう、力一杯。

「ちょっと離してくんない?」

「あのさ、さっきものの怪がどうのこうの言ってたけど、お前はそういうのが視えるのか?!」

随分と切羽詰まった顔だな何て、半分どうでもいい事のように思っていると、男がグッと顔を近づけた。

何こいつ、変質者?

「もし本当に視えるなら、俺の話を聞いてくれ!!」

「断るから。てかそれ以上顔近付けないでくんない?!殴るよ?!」

何なんだよ。

大声で視えるだとか聞くもんだから、その辺歩いてたやつらもこっち見ちゃってるよ。

おかげでものの怪達も、こっちをジッと見てるし。

「この通りだ!俺の話を聞いてくれ!」

今度は往来で土下座まで始める男。

「あーあーあー!!分かったよ!聞くよ。聞けばいいんだろ?」

ぎゃーぎゃーとやかましいね。おかげでこっちが音を上げちゃったよ。

「ありがとう!」

「……はぁ」

溜め息を吐いてから、僕は男を連れて家に戻ることにした。

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