花咲く雪に君思ふ
全く。

仕事以外で、何であんなのと関わってなきゃいけないのさ。

ついでとか言って、いつも何かと面倒ごとを押し付けにくるくせに。

それに、あいつは小物の妖怪や小鬼何かに憑かれやすい体質だから、あいつが僕の所にくる度に、いらないおまけを連れてくる。

それをいちいち祓ってやる僕の身にもなってほしいよ。

別にあれくらいの雑魚なら、放っておいても害にはならないけど、いつどこで悪いものを呼んでくるか分からない。

放っておきたいのは山々だけど、こっちに危害が及ぶのは非常に迷惑だからね。

別に、ちょっとはあいつのことを心配してるとかじゃないから。

「……ただいま」

我が家の戸を開けると、ようやく一息吐く。

山の中にあるこの家は、やたら人が来ることもなければ、邪魔な小物のものの怪もやってこない。

何せ、家の中にものの怪が入ってこようとしても、強制的に浄化されるからね。

「お帰りなさい!桃矢くん」

パタパタと走って来たのは、この家の家事を引き受ける居候……というか相棒……で、一応恋人の雪花(ゆきか)。

「あんたさ、そんなに慌てて走って、転んでも知らないからね」

「ごめんなさい。桃矢くんが帰ってきたと思ったら、嬉しくて」

ほわほわした笑顔を浮かべ、雪花はそう言う。

「あっそ。……僕はちょっと仕事部屋に籠るから」

「うん」


雪花はほえほえとした、何というかふ菓子?みたいにふわふわした女だ。

まぁ、頭の中までゆるふわなわけではないと思うけど。

特別強い霊力を持っているわけではないけど、雪花は悪霊や小物のものの怪を浄化する力がある。

その理由として考えられるのは、雪花が異常なまでに清らかだからだと思う。

人には必ず、心の中に陰と陽の感情がある。

だから、ものの怪につけこまれたりするんだけど。

雪花には「陰の感情」が無い。

誰もが持つ、嫉妬や欲望、怒り。そう言うのを持ち合わせていない。

非常に特殊な体質だろう。

悲しみはあっても、相手のことを思って悲しむから、雪花自身のための陰の感情が無い。

つまり、綺麗すぎて、ものの怪も逆に手出しが出来ないわけ。

元々神社に拾われ、巫女として育ったからかも知れないとは思うけど、雪花と暮らしてからも、まだまだ謎が残る。

「……さてと、これで暫くは持つかな」

札に練り込んだ術は、いつも持ち歩く護身用。……雪花のだけどね。

僕は呪文とか唱えなくても祓えるし。

懐から細かく文字が刻まれた、退魔用の小太刀を取り出す。

基本的にこの小太刀と、術式の札があれば事足りる。

成仏させたりとかは、雪花の専門で、僕は戦うのが専門だからね。

でも、僕はどちらかと言うと、ものの怪の方に肩入れするけど。


だって、生きている人間ほど恐ろしいものはないからね……。

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