花咲く雪に君思ふ
「菊千代ー?菊千代どこ?」

「ここよ。菊之助!」

妹を探していた菊之助は、庭に生えている梅の木の下へと向かう。

そこでは、妹がお尻をこちらに向けながら、なにやらごそごそ漁っていた。

「?何してるの?かくれんぼ?」

「そんなわけないでしょ?この子と遊んでたの」

そう言って、菊千代は自分の手のひらを菊之助に差し出した。

だが、そこには何もない。

からかっているのかと、菊之助は眉間にしわを寄せる。

「何もないじゃないか」

「えー?ちゃんといるわ!ほら、ここ!黒くて埃みたいな変な生き物だけど、とっても良い子なのよ?」

「……またそうやって僕をからかって。嘘ばっかりついてると、そのうち皆に嫌われるよ」

「嘘じゃないもん!私、嘘つきじゃない!」

幼かった菊之助は、この時はまだ気付かなかった。

自分には視えていない世界が、妹には視えていることを。

その世界が、どれほど危険なことを。


「母様ー。菊之助がまた私を嘘つき呼ばわりしたの!私、嘘はつかないもん!嘘つきは地獄に落ちちゃうって母様言ってたでしょ?……だから、私は嘘つかないもん」

「ええ。勿論よ。母様はちゃんと分かっているわ。私の姉様もそうだったもの。人とは違う世界を視て、視える力で、いつも私を守ってくれたもの。貴女は姉様にそっくり。……私の愛した姉様に……ね」

菊之助の母は、幼い頃に亡くなった母(菊之助の祖母)の代わりに育ててくれた姉を、とても慕っていた。

そんな姉にそっくりで、姉と同じ世界を視ることが出来る菊千代のことを、とても愛していた。

勿論、双子である菊之助にも愛情を持っていたが、女である菊千代を自分の姉と重ねていた。

だが、その日は突然訪れた。

「菊千代。またそんなとこに立って……。早く戻るよ?」

「……」

「菊千代?」

菊之助の声に、菊千代はゆっくり振り替える。

ニコッと笑みを深め、お気に入りの木を指差した。

「呼んでる」

「?何が?」

「こっちへおいでって呼んでるの。だから一緒に行こう?」
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