妖精の涙【完】
そうして建物から出ると、自分がいたところが王城だったことが分かった。
フェールズの王城は高台にあるから街を見下ろすような感じだが、ここはそれよりも低いからかもっと近くに街の雑踏を感じていてまさか王城だとは思っていなかった。
賑やかな通りを2人で歩く。
「はぐれんなよ、歩くの遅えんだから」
「わかってます」
ふと、文房具屋に目がいった。
「寄るか?」
「はい」
店のガラス越しに見えたとあるペンが気になったのだ。
それを真っ先に手に取るとギーヴも興味深げに彼女の手元を覗きこんできた。
「へえ。見事だな」
それはガラスのペンで、各国の色の細長いガラスを先端にむけてねじったようなデザインで、精魂祭限定、とポップに書かれていた。
こうして見ている間にも値が張るにも関わらず1本、また1本と減っていく。
その様子に彼女の財布の紐も緩んだ。
「あの、お金は後で返しますからこれ買います」
「わかった」
それを3本手に取るとギーヴは首を傾げた。
「2本足りねえだろ」
「え?」
「おまえと俺の分」
と、彼は新しく2本を手に取った。
「その3本はあいつらの分だな?」
「…そうです」
「いいから俺から貰っとけ」
と、さっさと5本をお会計に出してしまった。
「一目ぼれってやつか」
「…ノーコメントで」
ワンピースの手前、あまりその単語を使ってほしくなかったため取り合わなかった。
そして通りを歩きながら街にいる人たちを観察した。
露店で談笑するグループを見てみると様々な色のブレスレットをしているのがわかり嬉しくなった。
王たちのギスギスは庶民にはあまり関係ないのである。
「あ、いつの間に」
その露店に目を向けている隙にギーヴは何やら食べ物を買って食べていた。
「どうせなら楽しもうぜ」
と、串に刺して焼かれた鶏肉を差し出された。
受け取るとタレの香ばしい匂いがする。
「美味しそうですね」
「イケルドの料理らしい。滞在者に旅人が多いからか、独創的な料理も多くて面白いぞ」
「なるほど」
旅人の意見とか味付けとかを参考にして生まれた料理か。
1口食べると甘いタレがよく合っていて美味しかった。
「あ、あれはなんでしょうね」
好奇心にかき立てられてふらふらとあっちこっちに向かおうとするとギーヴに止められた。
「マジで迷子になるからやめてくれねえか」
「すみません…」
その後はしゃぎすぎてしまったからか、体力が足りなくて適当に見つけたベンチに腰掛けた。
足が疲れた…
「飲み物買ってきたぞ」
「ありがとうございます」
戻って来たギーヴからコップを受け取って飲むと飲んでから気づいたがアルコール臭がした。
「あれ、これ…お酒…」
みるみるうちに眠くなる。
「あ、ヤベ。確認すんの忘れてた」
手からコップが滑り落ちるのを感じる前にすでに目を閉じていた。
何度か揺さぶられたような気がしたが、もうその記憶の断片は忘却の彼方へと消えていき目の前が真っ暗になった。
ああ。
落ちる。
闇に落ちていく。
沈んでいく感覚が心地よくてそのまま意識を手離した。