妖精の涙【完】
「あなたは?参加する?」
「わ、私がですか」
「参加するって言っても、あたしの隣に控えてこうべを垂れて影に徹するだけよ」
「今まではどうなさっていたんでしょうか」
その様子があまり想像できなくてつい聞いてみた。
「オルドお兄様とずっと付き添っていたわよ。挨拶もスムーズになるし、お互いにいい虫よけになっていたわ」
確かに。
2人でバラバラで行く必要もないし、性別も違うからおじさんたちは自分の子供を紹介しづらくなる。
…今年もそれでいいのでは。
「でも今年からはオルドお兄様は王座に鎮座したままになるからそれができなくなるのよ。不便よね…」
"王様って"
という、続けて出た言葉にギクリとした。
アゼルとの会話を思い出し、こういう感覚が周囲に残っていることも彼の新米国王感が払拭できない理由の1つではないか、と思った。
「ギ、ギーヴさんを連れて歩くのはいかがでしょう…」
「え、嫌よ。あたしの演技がばれるもの」
苦し紛れに提案したもののすっぱりと却下された。
こんなサバサバとした性格だとはみんな思っていないだろうし、リリアナも表に出したくないと思っているようでそんなことを言われた。
ギーヴとの口喧嘩を思い出してやっぱり無理なんだろうか、と肩を落とした。
「でも、ギーヴさんもポーガス家の子息として参加するんですよね」
「そうなるわね」
「いい虫よけになるのでは…」
「あの男はむしろ大歓迎だと思うわよ、虫が寄ってきても」
なんかすごい悪いイメージを持たれているようだ、と彼を気の毒に思った。
精魂祭でぶっ倒れた自分を無事に連れて帰った彼に頭が上がらなくなっている手前、そう言われると複雑な気分になる。
「…そうですね」
ここは肯定しておいて、あとで相談してみよう。
リリアナ様の虫よけになってくださいませんか、って…
余計なお世話かもしれないけど、2人のことを知っているからこそお互いに離れている必要はないと思った。
オルドも動けず、ケイディスも対応に追われているときに彼女が1人ぼっちでいるなんて可哀そうだ。
侍女の自分が連れになったところで相手は男性ばかりだろうし、煌びやかなパーティーに参加したことがないものの、苦手意識があるためあまり役に立たないだろう。
それならギーヴにお願いして守ってもらった方が安心だろう、と思った。
「プレゼントを用意した方がよろしいですよね」
誕生日パーティーにプレゼントはつきものだ。
「そうね。去年はブローチだったから別のを考えないと」
と、リリアナはぶつぶつと何かを言い始めたがきっと候補を考えているのだろうと思い、食器類を片付けて部屋を出た。
誕生日プレゼントか…
今まで1度ももらったことがないためなんだかその響きが新鮮だった。
人とぶつからないようにワゴンを押して歩きながら考えてみるも、なかなか思い浮かばない。
ハンカチはもうたくさんありそうだし、装飾品は関係から考えるとちょっと重い気がする。
日常的に使うのはペンだけど、精魂祭のお土産としてすでにギーヴに渡してもらった。
あっても困らないもの…いっそお菓子とか…?
でも好き嫌いがあったら失礼だし、腐るものをあげるのはどうなんだろう。
うーん、と首をひねるもいいアイディアが浮かばず横に頭を振った。
ああ、ダメだ。
全然思いつかない。
ふと、今は冬だということに思い立った。
冬に使うもの…
外でも中でもなんでもいい、何かないだろうか。
ああ、そう言えばケイディスは紅茶をよく飲んでいた。
それならアレがいいかもしれない。
季節は全く関係ないけど。