妖精の涙【完】
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俺らがまだ7歳だったとき。
1度だけ無断外出をしたことがあった。
いわゆる脱走だ。
オルド、ケイド、俺の3人で向かった先は、街に来たサーカス団のテント。
各地を巡っているというそのサーカス団を一目見たいと言い出したのは俺だった。
夜に3人でオルドの部屋に集まり話し合いをした。
「見たこともねえ珍獣が火の輪をくぐったり、人が高いところにある綱1本の上を渡ったりするんだ」
以前父親から聞いたことはあったものの、半信半疑でそのときは興味がなかった。
しかし今は違っていた。
確かめたい、という好奇心が俺を駆り立てていた。
「誰にも言わずに、か?」
「そんなのダメだよ!」
オルドが確認するように俺を見ると、ケイドは大きな声を出して反対した。
「だってお外は怖いってお兄ちゃんも言ってたじゃん!」
まだ6歳だったケイドは酷く臆病な性格だった。
大事に育てられた証拠だ。
「行きたくなければ行かなくていいんだ。俺は行くぞ、ギーヴ」
「そうこなくっちゃな」
「ぼ、僕も行く!1人にしないでよお!」
「しっ。大声を出すんじゃねえ。聞こえんだろ」
「むぐっ」
口を両手で覆ったケイドを一瞥し、ポスターを再び見たオルドが読み上げる。
「サーカス団の滞在期間は今日から1週間の間だけ。公演時刻は10時、12時、14時、16時の4回のみでそれぞれ1時間か…なかなか厳しいな」
教師はみんな家庭教師で、入れ代わり立ち代わりで教師は変わるが時間割が決まっている。
そして公演時刻に重なる休憩時間がなく、しかも脱走するのだからバレるとまずい。
「現実的じゃねえんだよな、正直」
難解なミッションだ。
「あのめちゃくちゃ年寄りのじじいを眠らせんのはどうだ?」
「ああ、あのじいさんか」
ふと思いついたことを言うとオルドが反応した。
ケイドは律儀にもまだ口に手を当てている。
「あのじじいは歴史しか担当してねえから首になっても平気だろ」
「酷い考え方だ」
「もう学校の教師から引退してんだし」
「でも僕、あの先生好きだよ…」
たまらなくなったのか、ケイドが泣きそうな声で俺らに抗議した。
確かにあのじじいは優しいし、何回も同じ話をされるが授業もわかりやすい。
ケイドの事を考えるとやっぱりダメか、と思った。