妖精の涙【完】





「僕は、ラファ。初めまして、オルド」


1週間の謹慎が解かれたものの2人に合わせる顔がなく、あのとき俺はしばらく山小屋で寝泊まりをしていた。

椅子に座り腕に残る痣を撫でながら物思いに耽っていると、いきなり現れ喋ったあの男。

銀髪の下から覗くアメジストの瞳に一瞬息がつまった。

人形のように整った無機質な顔をしたその男は、俺を遠くからじっと見ていた。


「おまえ、どうやってここに入ったんだ」


ただ事ではないと感じ、警戒しながらゆっくりと椅子から立ち上がりドアに背を向け対峙した。

いつでも逃げられるようにするためだ。


「どうやって…変な質問だね」

「は?」


変な答えに俺が眉根を寄せるとその男は両手を挙げた。


「僕、仲良しになるために来たんだ。そんなに警戒しないで?」

「無理な要求だな」

「うーん…どうすればいいんだろ」


見た目に反して言葉遣いが幼く、頭を掻くその動作もどこか憎めないと感じ、とりあえず俺は近くのテーブルに体重を預けた。


「ラファ、と言ったか」

「うん」

「おまえは俺の味方か?」

「そうだよ」

「どこから来た」

「お城」

「城?」

「そう、お城。みんなが王宮っていうところ」

「そんなわけはないだろ、今まで会ったことがない」

「うん。だって僕は国王の近くにずっといるから。オルドは国王に会わないでしょ?だからだよ」


会話をしながら記憶をさかのぼってみるが、やはり見覚えが無くて考えるのをやめた。


「ケイドはおまえを知っているのか?」

「どうだろう。僕はいつもフードで顔を隠してるから知らないかもしれない」


ということは、こいつは一方的に弟を知っているということになる。

ケイドも俺に遠慮して家族の話をしないため、こいつの存在を俺が知らなくても仕方がない、と思った。

こちらだけ警戒しているのも疲れるため、とりあえず敵ではない、と暫定することにした。


「それで、おまえの目的はなんだ」


探るように睨んだがあまり効果はなく、表情を変えずにラファは答えた。


「んーと、新しく主になるオルドに挨拶をしに来たんだ」

「主?」

「うん。僕はずっと君たち兄弟を見てたんだ。どっちが国王になるんだろう、って。僕の主は国王だから」


言葉数は多いが、要はいずれ王になる俺の前に姿を見せる気になった、といったところか。

こいつ、何様のつもりだ。


「僕も見てたよ、あのサーカス」


目の前の男がどんな立場の人間か考えていたとき、そんな爆弾発言が投げ込まれて俺の思考は完全に停止した。


「あの動物はかわいそうだったね。殺されるべきだったのはあの輪の位置を変えた人なのに」


そしてそんなことを何でもないようなことのように言った。


「ずっと同じ人がやってたのにあの日だけ違う人だったんだ。慣れてなかったんだと思う」

「おまえ…」


本当に何者なんだ…?




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