妖精の涙【完】
「おまえは…」
独り言のような小さい声で言ったのだが、しっかりとあいつの耳に届いていたみたいだった。
「僕は妖精…フェールズ王国に仕えて1000年は経ってる」
「妖精だと?」
バカバカしい、と首を横に振った。
妖精なんておとぎ話に過ぎない。
「本当だよ。信じないの?」
「当たり前だ」
「ドアを使わないでここに来たのに?」
「ああ」
「雨が降ってるのに濡れないでここにいるのに?」
「…」
その言葉にハッとした。
確かに外は雨が降っており、こいつの足元も汚れていない。
歩いてきたのであればもっと泥で汚れているはずだし疲れているはずだ。
しかしそんな様子が全くない。
「確かに妖精は人間とほとんど同じだけど、僕の場合は違うんだ。フェールズ王国と契約を結んでいる限り老いることもないし、国土内ならどこにでも行ける」
「だからここに来られた、と」
「うん。でも不死身じゃないよ。寿命はちゃんとあるんだ」
「わかったわかった」
誤解されないようにしたかったのか、俺の目の前まで迫って顔を近づけ念を押してきたラファから顔を背けた。
顔の間に手を広げ、体を右側にずらして逃げた。
しかしその行為でわかったことがあった。
「おまえ…左目しか見えていないだろう」
「うん。生まれつきだよ」
「妖精に生まれつきと言われてもな…」
「信じてくれるの?僕が妖精だって!」
「あ、ああ、まあ…」
「ありがとう!今までの主はみんなこんなに早く信じてくれなくて、子供のときに自己紹介すればすぐに信じてもらえるのかなって思ってオルドに会ってみることにしたんだ」
いきなりベラベラと話しだして面食らったが、悪いやつではないんだと思って話を聞いてやった。
それから数日、ラファと話をし、いい加減戻ろうと思えたため2人のところに戻った。
やはり最初は何を話せばいいかわからず遠慮がちな態度を取ってしまったが、ギーヴにぶん殴られて目が覚めた。
「…ただいま」
ただいま。
俺の居場所。