妖精の涙【完】
それから1か月後。
スーは侍女を辞めた。
1か月の間、みっちりとスパルタ指導されヘトヘトだったが、その分彼女は重たい荷物を全てどこかに置いてきたようなすっきりとした表情をしていた。
どこか、まではわからないけど。
きっと誰にもわからない場所だ。
「ごめんなさい。本当はもっと一緒にいて指導しなくちゃいけないんだれど」
「いえ。もっと一緒にいるべき人は私じゃありませんよ」
あの人です、と指差すと彼はうん?とこちらに気づき首を傾げてきた。
城門で見送りをしている最中なのだが、つもる話があるだろう、とわざわざ席を外してくれた気障なお兄さん。
わざとか偶然か。
彼の服装はティエナと初めて出会ったときと同じだった。
「そう、ね…」
まだ瞳を揺らす彼女にティエナは言った。
「笑ってください」
その揺れる瞳を見つめながら。
「私はスーさんのえくぼ、好きですよ…彼も以前同じことを言っていました」
彼女のえくぼを見たいから俺も笑うんだ、と。
「さ、早く行ってあげてください。これからたいへんなことや辛いことがあると思いますが、2人ならなんとかなります」
もう1人で我慢する必要も、泣くこともないのだ。
これからは嬉しいことも楽しいことも増えていく。
「私、これから時間があったらティエナに手紙を書くわ」
「はい。ちゃんと全部読みますね」
そう言って、お互い笑顔で別れた。
馬車が見えなくなるまで見送り部屋に戻り、処分されず持って行かれず残された手紙の山を見下ろした。
全部、彼女宛の彼からの手紙だ。
封を切ってあるものもあれば切っていないものもある。
彼の恥ずかしいから、という要望と、彼女のもう必要ない、という助言で処分することになった。
まったくいい迷惑である。
「後悔も全部燃えてしまえ」
と、呟きつつ全部を火にくべた。
彼女がいなくなり半分となったこの部屋。
スーはやはり寂しかっただろう。
3か月で辞めたという人がいなくなったときは。
「もう、練習する必要は、ない、のに…」
ベッドメイク、練習し放題じゃないか…