妖精の涙【完】
新しい生活
そして後日、手紙が届いたという知らせを受けて預かってくれているところに向かった。
スーから手紙が来るまで早かったなあ、と思いつつ渡された手紙は彼女からではなかった。
金箔が散らしてある封筒に、王族の文様の印鑑。
表にはただ、ティエナ・メリスト親展、とだけ書かれている。
その場で開くのはやめようと思い部屋に帰り封を丁寧に切ると中から1枚の紙が入っていた。
「ティエナ・メリスト殿。貴殿を本日よりフェールズ王国第1王女、リリアナ・フェールズ専任の侍女に命ずる…」
…。
……。
………え?
その続きには今すぐ来るように、と書かれていた。
いったいどうなっているんだ。
バタバタと走り王宮に行き騎士に名前を答え、訪問理由と手紙を見せると2つ返事で通してくれた。
いよいよ現実味が増してきた。
初めて入ったこの建物…
限られた侍女しか入れないところで、全く建物の構図がわからない。
つまりリリアナの部屋がわからない!
「完全に迷子だ…」
あのとき騎士にちゃんと聞いておけばよかった…
わからないのは当たり前なんだから。
「どうしたの?」
きょろきょろとしているとふいに背後から声をかけられた。
振り向くと軍服を着た金髪碧眼の綺麗な男の人がティエナを見ていた。
騎士だろうか、と思い、これで助かった!と安心した。
「すみません、リリアナ様のお部屋はどちらでしょうか…」
「ああ、それなら…」
右手に持つ手紙をちらっと見た彼に左手を引かれた。
「こっちだよ」
手袋越しとは言え、こうして手を引かれるとは思っておらず困惑した。
大きい手だ。
「あの…本当に連れて行ってくださいますか?」
「うん?」
立ち止まった彼にどういう意味?と言いたそうな青い目で見下ろされた。
澄んだ目だった。
「申し訳ありません。疑っているわけではありませんが、もしどこかに連れて行かれようとしているのであれば抵抗できないな、と思いまして」
「…ふふっ、君面白いことを言うね」
あまりにもおかしかったのか、彼は繋いでいない方の手で口元を隠しながらクスクスと笑った。
それはそれは楽し気に。
「そんなことする人、ここには入れないよ」
「…言われてみればその通りですね」
こんな庶民が2つ返事でここに入れたことで感覚が鈍ってしまったのか、その考えが思い浮かばなかった自分はなんて馬鹿なんだろう、と思った。
それと同時に背筋が凍った。