妖精の涙【完】


「原因、おまえなら知っているんじゃないか」

「………うん」


間をおいてラファは頷いた。

ギーヴは何かを言いかけたが俺の無言の圧で口をつぐんだ。


「評議会の人とメイガスのバレスっていう…人、が、手を組んだんだ。バレスはティエナを欲しがっていたし、評議会はオルドからティエナを離す機会をずっと狙ってたから」

「バレスはどんな人物だ。答えろ」


彼の言い方からして、人ではないことはわかっていた。

今さらもったいぶってどうする。


「うう…いいの?」

「命令だ」


恐らく妖精について詳しく知らない2人のことを気にしてそんなことを聞いたんだろうが、生憎今はそれを気にしている余裕はない。


「わかった…長くなるけど」


ラファによれば。

バレスという老人はティエナが長い眠りから目覚めたとき彼女を攫おうとしたらしく、国境から出られないラファは侵入してきたバレスをなんとか追い払うことに成功したものの諦めたとは考えていなかった。

さらに精魂祭のときにティエナが連れ去られてしまったのもバレスの仕業だったが運よく失敗した。

そして今回は内側の人間を利用してティエナを手に入れることに成功したのだ。

なぜそこまでしてティエナにこだわっていたのか。

その理由は妖精がまだこの世界に来ていた頃にまでさかのぼる。


「羽をもがれた妖精たちは飛べなくなって、老化も急激に進んだ。月の光のエネルギーが少ない人間界で暮らすには過酷な条件で取り残されたほとんどの妖精たちは命を落とした。でもバレスは違った。シルバーダイヤを漁って自分のために使って生き延びた。そして仲間の無念を晴らすためにティエナを利用しようと考えた」

「なぜだ?」

「ティエナは王の子で親和性が高いから、1度閉じた人間界と妖精界を繋ぐ門を開くことができる。たぶん、その門を開くのがバレスの目的」


そう。

その門が閉じられている限り俺はラファとフェールズとの契約を解消することができない。

そのため、契約を切るようアゼル殿に要求された時も断ったのだ。

俺だったらできるものならもうすでにやっている。


「門を開いて大勢の妖精を呼び寄せて人間に復讐しようとしてるんだよ。今も当時の妖精狩りをまだ覚えている妖精はたくさんいるはずだし」

「じゃあ、もしティエナがその門を開いてしまったら…」

「うん。人間界は滅びる」


ケイディスの言葉にラファは申し訳なさそうに答えた。

他の2人は神妙な面持ちで聞いているが、恐らく内容の半分も理解できていないだろう。


「俺たちはどうすればいい」

「開門を防ぐしかない」

「開かれた場合は?」

「そのときは…わからない」

「クソッ!」


俺は床に向かって悪態をついた。


「なぜそんな重要なことを教えなかったんだ!答えろ!」

「僕は…僕は…だって…」


おろおろとするラファは泣きそうな声をしていた。


「王の生まれ変わりだから…あの子には幸せに生きて欲しかったんだ。もし教えたら、閉じ込められたり…殺されたり…そんなの、耐えられないよ…!!」


その場に頭を抱えて蹲ってしまったラファを見下ろしながら、彼の言葉に呆然とし目を瞑った。

一瞬でも。

部屋に閉じ込めた彼女を想像してしまった自分を許せなかったから。


「…ギーヴ」


ギーヴは俺に名前を呼ばれビクッとした。

ケイディスによれば、このとき俺は気づかないうちに父上によく似た声を出していたらしい。


「今すぐ足を用意しろ。これよりメイガス王国に向かう」

「…はっ!」


弾かれたように飛び出して行ったギーヴを見送らず、俺はメイガスがある方向の窓の外を鋭く睨みつけながら静かに呟いた。


「ただで済むと思うな…!」




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