妖精の涙【完】
「たいへん申し訳ありません…先ほどは無礼なことを申しました」
「大丈夫、気にしてない」
まだ上がる口角をおさえられないのか口元を隠しながら言われた。
その様子を見て嘘ではない、と感じた。
「これからが楽しみだね」
「え?」
「ほら、着いたよ」
手を引かれたまま歩いていると、いつの間にか目的地に着いていたようだ。
確かに重工で煌びやかな造りのドアだ。
そして彼が何の前触れもなくノック無しにドアを開けて入ったためぎょっとした。
「リリアナ。ちゃんと書類に自分の部屋の位置を書かないとわからないよ。早く来い、とかなんとかだけ書いたんじゃないの?」
「まあケイドお兄様!ノックぐらいしてちょうだい!」
「ああごめん、忘れてた」
「何回目だと思っていらっしゃるの!」
「じゃあ何回目?」
「…わからないわそんなこと、いちいち数えてないもの」
彼とよく似た金髪碧眼の綺麗な女性がそこにはいた。
そして、もれなく自分も無礼な入り方をしてしまい居たたまれない気持ちになっていた。
どうしようこの状況…
「大丈夫よティエナ、あなたは被害者なんだから」
不安が顔に出ていたのだろう。
いつの間にか顔を覗き込まれ彼女にそう言われた。
が、顔なんて上げられるはずもない。
それどころか手を引っ張り疑いにも動じずここまで案内してくれたこの人が第2王子のケイディス様だったなんて…!
穴が無いから掘ってでも潜りたい。
顔なんて知らなかったんです!
「ティエナ、これからよろしくね」
と、手を差し出されたが両手が塞がっていてできなかった。
「お兄様、その手をどけてちょうだい。いつまで握っているつもりなの」
「なんか離したくなくて」
「お兄様のそういうところ大っ嫌い!オルドお兄様を見習ってほしいわ」
「オルドは天然タラシだよ。そっちの方が罪な気がする」
「お兄様は確信犯よ!」
はいはい、と解放された左手とポケットに手紙を突っ込んだ右手で怒るリリアナの両手を取るときょとんとされた。
ティエナを見る目がぱちくりとしている。
「…?」
握手をしたいんだろう、と思っていたのに違ったのだろうか。
首をかしげると後ろでケイディスがお腹を抱えて笑い出した。
「あはははは!もうダメ、たまんない…!」
と、そのまま部屋を出て行ってしまい部屋で2人きりとなった。
半開きのドアの隙間から廊下に響く彼の笑い声がまだ聞こえてくる。
「…不愉快ね」
と、バタンと思いっきりドアを閉めたリリアナは正面からティエナの両肩を抱き、そのまま抱きしめた。
腕の中でパニックに陥る。
「あなた面白いわね!もう気に入ったわ!」
ぎゅうぎゅうと閉じ込められ目が回りそうだった。
そしてこの日から、ティエナの生活はがらりと変わっていった。