妖精の涙【完】
「ダメだ。今だけメイガスはフェールズの受け入れを拒否してるみてえだ」
「遅かったか…」
メイガスに入るには国境にある検問所を通らなければならず、オルド、ケイディス、ギーヴだけで向かい到着したのだが、面のわれていないギーヴのみをとりあえず向かわせたものの拒まれた。
戻って来たギーヴの言葉にオルドはため息をつく。
今は午後の5時で気温が低く、もうすぐ日も暮れそうだった。
「きっと全部の検問所がこんなんだろうな。不法侵入するか?」
「やれるものなら、な」
目を妖しく光らせたギーヴの様子に応えるようにニヤリと笑った。
今の彼の顔は悪戯をするときのそれだった。
「もう連絡はしてある」
そして検問所から離れたところで待機していると1台の荷馬車が停車した。
後ろには荷物を積んだ荷台があり、大きな布で覆われている。
ギーヴと運転手の男がこちらに歩いてきた。
知らないその男に身構えた。
「ああ、こいつは元騎士だから安心してくれ。国内の大きな街に行くよりメイガスの街に行く方が近いってんでよく通過するから検問所のやつらに顔が利くらしい。おまえらにはこれから荷物になってもらうぜ」
それを聞いて肩の力を抜いた。
ケイディスも冗談をいう気力が湧いてきたのか、肩をすくめた。
「まさにお荷物だね」
「そんな滅相もございません!王子たちに…いえ、陛下もおられますので俺の方が申し訳が立ちませんよ、もし通れなかったら、と思うと」
と、運転手の男はへこへこと頭を下げながら言った。
いざとなれば剣を抜くまでだと思いそれを制し、愛馬を木に括りつけて荷台に近づいた。
馬たちは後でこの運転手が営業する宿で預かる手筈になっている。
「それで俺たちはどうすればいい」
振り返りギーヴに聞いた。
「酒樽ん中入れ。揺れて酔うかもしんねえが我慢しようぜ。荷物検査しようにも暗いし顔見知りだしでされる確率は低いからそこは平気だろ」
「僕ちょっと自信ない…」
「吐くなら下りてから吐け」
「弱音をな」
最後にそう釘をさすと、ケイディスが口を開けて呆けながら見てきた。
それを無視して先に酒樽の中に入り、ケイディス、ギーヴの順にそれぞれ別に身を隠し荷台に布が被さり準備ができた。
「それでは皆さん動きますよー」
男の声が聞こえると、ガタガタと車輪が動き始めたのが全身に伝わってきた。
目の前は真っ暗で、しかも横たわった酒樽の中にいるため方向感覚が麻痺し目が回りそうだった。
何があっても無言を貫かなければならず呻くこともできないため、かなりのストレスを感じる。
ずっとケイディスのことが心配だったが、何かしら喋ると思っていたあいつが何も言わないのをみるともしかしたら気を失っているのかもしれない。
それはそれで気が楽になりそうだ、と逆に笑えた。