妖精の涙【完】





何かに追いかけられている。


ここはどこだろう。

なんだか元気が出ない。

でも逃げなきゃ、と思った。


暗い森。

植物は私の味方。

優しい。

でも何かは怖い。

みんなが逃げてって言ってる気がする。

みんなが何かの邪魔をしてくれてる。


走る。

転ぶ。

立つ。

走る。


そのうち、何かはいなくなった。

歩く。

倒れる。

立つ。

歩く。


だんだん元気が出た。

でも疲れた。

お腹すいた。

でもお腹ってなんだろう。


森から出るとみんながいなくなった。

でも進めって言われてる気がする。

歩く。

歩く。

歩く。

お腹すいた。

歩く。

お腹すいた。

お腹すいた。

お腹すいた。


ふと、いい匂いがした。

なんだろう。

欲しい。

凄く欲しい。

食べたい。

食べたいって何?

でも食べたい。

食べたい。

食べたい!





「あー!あー!」


ドンドンと壁を叩いた。

いい匂いがそこにある。


ガチャ。

壁に穴が開いた。

走った。


「あー!」

「なんなのこの子…裸だし…ちょ、ちょっと待ちなさい!何するの!」


穴から壁に入ると明るく、暖かく、いい匂いもあった。

平たい木の上に手を伸ばし、いい匂いを掴み口に入れる。

飲み込むと元気が湧いてくるようだった。

もっと欲しい!

もっと!


「あなた!変な子が勝手に!やめなさい!」

「あー!あー!」


腕を掴まれ羽交い絞めにされ、声を出して抵抗すると口の中からいい匂いが落ちた。

でもなんだか、目が開かない。


「こんなに大きいのに言葉がわからないみたい…食べて寝て、まるで赤ちゃんよ。とりあえず綺麗にしてベッドに寝かせましょう」

「いや、今すぐ山に捨てよう。まだ誰にも気づかれていないはずだ」

「待って!話し合いましょう?」





それは。

忘れたはずの私の記憶。




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