妖精の涙【完】
*
何かに追いかけられている。
ここはどこだろう。
なんだか元気が出ない。
でも逃げなきゃ、と思った。
暗い森。
植物は私の味方。
優しい。
でも何かは怖い。
みんなが逃げてって言ってる気がする。
みんなが何かの邪魔をしてくれてる。
走る。
転ぶ。
立つ。
走る。
そのうち、何かはいなくなった。
歩く。
倒れる。
立つ。
歩く。
だんだん元気が出た。
でも疲れた。
お腹すいた。
でもお腹ってなんだろう。
森から出るとみんながいなくなった。
でも進めって言われてる気がする。
歩く。
歩く。
歩く。
お腹すいた。
歩く。
お腹すいた。
お腹すいた。
お腹すいた。
ふと、いい匂いがした。
なんだろう。
欲しい。
凄く欲しい。
食べたい。
食べたいって何?
でも食べたい。
食べたい。
食べたい!
「あー!あー!」
ドンドンと壁を叩いた。
いい匂いがそこにある。
ガチャ。
壁に穴が開いた。
走った。
「あー!」
「なんなのこの子…裸だし…ちょ、ちょっと待ちなさい!何するの!」
穴から壁に入ると明るく、暖かく、いい匂いもあった。
平たい木の上に手を伸ばし、いい匂いを掴み口に入れる。
飲み込むと元気が湧いてくるようだった。
もっと欲しい!
もっと!
「あなた!変な子が勝手に!やめなさい!」
「あー!あー!」
腕を掴まれ羽交い絞めにされ、声を出して抵抗すると口の中からいい匂いが落ちた。
でもなんだか、目が開かない。
「こんなに大きいのに言葉がわからないみたい…食べて寝て、まるで赤ちゃんよ。とりあえず綺麗にしてベッドに寝かせましょう」
「いや、今すぐ山に捨てよう。まだ誰にも気づかれていないはずだ」
「待って!話し合いましょう?」
それは。
忘れたはずの私の記憶。