妖精の涙【完】





「なんだこれは…」


何やら彼女の部屋の前が騒がしいと聞きアゼルが向かうと。

ドアの隙間から植物のツタが廊下に伸び、ドアもガチガチに固定されていて開くことができなかった。

外からも確認してもらったが、カーテンが閉まっていたため中を確認することができなかった。


「報告しろ」

「はっ」


人払いを済ませ部屋の前につけていた護衛の1人に声をかけた。


「陛下が退室なさってから2時間後に中から物音が聞こえ、確認するために開けようとしましたがすでに開くことができずツタが下から伸びてきました。その結果がこれです」

「なるほど」

「アゼルお兄様」


護衛の言葉に頷くと、後ろからミレアが小走りで近寄ってきた。

どうやら心配になり来てしまったようだ。


「これは…」

「ミレア。この植物が何かわかるか?」

「はい。信じ難いですが…イエローコリンです」

「イエローコリン。フェールズの花か」

「そうなのですが…」

「ああ、メイガスで育つのは不可能だ。となると、原因は彼女か」


言葉を濁したミレアの代わりに言い、ドアの向こうで眠るティエナのことを考えた。

具合の悪そうだった彼女がしたことだとしても、こうなった原因が全くわからない。

種もなかったこの場所に、なぜこの花が…


しかし、ハッと気が付き懐を探った。

そこにある物がないことに気づき1人で頷いた。


「そうか。あのしおりか」

「しおり、ですか?」

「ああ。以前彼女にイエローコリンの押し花のしおりをもらったことがある。懐にしまっておいたのだがこの部屋で落としてしまったようだ」


落とすようなしまい方をした覚えはないが、とやはり首を傾げるも原因がそれしか考えられなかった。

首を捻っていると杖をつく音が響いてきた。

振り向くとバレスがいた。


「陛下」


彼は部屋の前まで来ると、指先でツタを触り何かを確認し始めた。


「原因がわかるのか?」


問いかけるとバレスは触るのをやめ振り返った。


「どうやら彼女のエネルギーを吸い取ったイエローコリンが生長し尽くしたようですね」

「生長し尽くした?」


生長が止まり枯化してしまったらしく、木のように固くなってしまったそうだ。

そのため、ツタを取り除くことは可能だという。


「では早急に排除させよう。他の者を呼んできてくれ」

「はっ」


護衛が去ったところでもう1度バレスに体を向け見下ろした。


「おまえはイエローコリンについても詳しいようだな」

「はい」


ちらりとバレスがミレアを見たのがわかったが、ミレアをこの場に留めても構わないと思い何も言わなかった。

そんなアゼルの様子を見てからバレスは口を開いた。


「…イエローコリンは月光のエネルギーを吸収して生長します。そのエネルギーを体内にため込んでいる妖精はイエローコリンを長持ちさせることができ、特に王は作り出せるため、彼女もまた例外ではなかったのでしょう」

「生長は枯れているイエローコリンでも可能なのか?」

「不可能ではありません」

「そうか…」

「はい。ですがこれは由々しき事態に変わりありません。異常な光景です。私もこれまで長く生きてきましたがこれほど生長したものは見たことがありません」


早口にそう言ったバレスは杖を持ち直しツタを押し上げたがやはり固く、びくともしなかった。

何重にも絡まったツタに先が思いやられる。


「これは骨が折れそうだ」

「陛下、連れて参りました」

「よし、やるか」


護衛が騎士を数人連れて来たところで上着を脱いだ。

アゼルが参戦することに異論を唱える者はいなかった。


「お持ちいたします」

「ああ、頼む」


今までずっと口をつぐんでいたミレアが手を差し出してきたため素直に手渡した。

彼女はそれを綺麗に畳んで抱きかかえた。


そして護衛から渡された短剣を右手に握りしめ、固いツタに刃を突き付けた。




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