妖精の涙【完】
そしてツタを切り落とし、ドアを押しながら部屋の中にもはびこっているツタを切っていく。
作業をしている者の顔には疲労が浮かび、いくら鍛錬している大の男とは言え木の枝のように固いツタをいくつもいくつも短剣で切るには限界があった。
燃やしてしまえば速いのだがそれをするわけにはいかず黙々と作業をする。
滑るからと手袋を外したためか、短剣で擦れ皆の手に血が滲んでいた。
そして痛みでジンジンとする手を力いっぱい振り下ろすと、ツタの奥に見えていた空間までたどりついた。
ベッドの周りにのみぽっかりとできていた空間。
そのベッドの上には見たことのない大きな結晶があり困惑した。
「なんだこれは…」
ティエナがいたはずのところにあるその結晶は人1人ぐらいの大きさがあった。
「これは繭でございます」
「繭だと?」
「はい。妖精の繭でございます」
額から目元まで流れてきた汗を腕で拭った。
バレスは淡々と説明を続ける。
「この繭はシルバーダイヤと同じような成分をしておりますが、未だに構成成分は解明されておりません。妖精は大人になるとき、このように繭を構築し羽化するのです」
「羽化するとどうなる?」
「羽が生え、老化が遅くなります」
つまり、ティエナはまだ妖精の子供だったということか。
「彼女がこうなった原因はわかるか」
確かにシルバーダイヤの結晶に見えなくもない色をしていると思ったが、肝心のティエナの姿が外から見えず一体中で何が起こっているのか想像がつかなかった。
羽化した彼女はもう人間のようではなくなってしまっているのだろうか、と不安になる。
「恐らく、急激に体内のエネルギーが急増したことにより、許容量を超え、その超えた分が繭となったのでしょう。妖精は生まれたときから体内にエネルギーをため続け一定量を超えると繭を形成し大人になりますが、その後は吸収しても消費するばかりでエネルギー貯蓄量の上限は低くなります」
「では、あの指輪が引き金になったのか…」
エネルギーの枯渇を懸念して与えたシルバーダイヤの指輪。
それによって変貌してしまった彼女を見やり、右手でコツコツと指の関節で叩いてみたが案の定何も起こらなかった。
「どうすれば彼女をここから出すことができる?」
「それは不可能です。羽化を待つしか他に手段はございません」
「何もしてやれないのか…」
この急激に生長したイエローコリンもそのエネルギーに当てられてこうなってしまったのだろうという予想もつき、呆然とするしかなかった。
いつ羽化するともわからないのでは成す術がない。
「通常はどれぐらいかかるものなんだ」
「2,3日ですが、個体差はございます」
目をぎゅっと瞑り、また開いた。
考えようとしたが何も思いつかず、どうすることもできないのであれば放置するしかないと思った。
「今日のところは引き下がる。引き続き任務を続行し、何か異変があれば何時でも構わない、私に知らせろ」
「はっ」
そして部屋から出て最後にバレスが出たのを確かめるとドアを閉めた。
またツタがはびこるかもしれないが、廊下の方が気温が低く、常識的に寒くない方がいいのかもしれないと思い、一応閉めることにした。
妖精と人間の混血…
まだまだ謎が多い。