妖精の涙【完】
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「ところで…妖精との契約のことなんだが」
森に入り辺りが真っ暗になっている今、音と月夜の光を頼りに進み続けていた。
立ち止まればたちまち寒さで体温を奪われる。
彼女がいなくなったのが発覚してから3、4時間が経過していた。
「信じ難いが、事実なんだろう?俺も国境を回ってるときに時々耳にしたことがあった」
「何を?」
後ろからケイディスが反応した。
ギーヴには先ほど妖精との関わりについて話したばかりで、彼なりに今は整理しているところなのだろう。
黙ってギーヴの話に耳を傾ける。
「フェールズは間違いなくここら辺の国で1番豊かな国だ。シルバーダイヤだけじゃねえ、土壌も、水も、気候も何もかもが良質で住みやすい。本当は貿易をする必要がないぐらいだ」
「まあ…そうかもしれないね」
そう。
フェールズは資源のバランスがよく、近所付き合いのために輸出しているようなもの。
そのため、財政は国内を中心に回っている。
「国境にはいろんな街があるが、共通点が1つある」
「どんな?」
「他国籍労働者が多かったんだ。隅っこの地区じゃ人手が足りねえとこが必ずあって、追い返そうにも追い返せない事情がいくつもあった。まあ、そんなとこばっかを巡ってたときにいろんな話を聞いたわけだ」
「…フェールズは悪魔と契約した、だろ」
「ん?知ってたのか?」
「ああ」
"フェールズは謎が多すぎる。資源にも自然にも恵まれ豊かな国を創造しているが、それは突然そうなったのだと古文書では書かれている。悪魔と契約したのではないかとさえ書かれている始末だ"
アゼルの言葉の通り、周囲には悪魔と契約したと思われているのかもしれない。
と言われているものの、金に困っている者がフェールズに流れ働き生きているというのも事実だ。
フェールズ国民にそんな意識はないが、他国からすれば実に平和ボケしたやつらだと思われていても不思議ではない。
「富で威厳を振りかざしてたフェールズがシルバーダイヤが枯渇したことで崩れ始め、メイガスにあらぬ疑いをつけた…ざまあみろって思われても仕方ねえし、誰もそれに対して助けようと思わねえよな」
「でもフェールズだってシルバーダイヤだけでやってきたわけじゃないよ。シルバーダイヤはあくまできっかけだっただけで、それが無くなったところで崩壊するような国じゃないし、自然と上手に付き合ってきた国民の努力の賜物だよ。だってずっと綺麗なままだもん」
「確かにどっかの国じゃ、動物のクソを川や海に流しちまってるとこもある。それで水質汚染が酷くなり海産物や飲み水の確保に苦労したらしい。だが…俺が懸念してんのは大きな挫折を知らない国っつーのが、フェールズがいかんせん反感を食らってる要因にあるように思うわけ」
「挫折か…」
確かに過去、大災害や大きな敗北を味わったことがない。
他国は挫折で支え合う機会があったのかもしれないが、プライドのせいか、今までフェールズに援助を要請することがなかった…と考えられなくもない。
仲良くはしたいが、腹を割れない国。
それがフェールズ…
「3000年間、地震やら豪雨やらでどの国も無傷でした、なんてことあるか?」
「…無いと思う」
「だろ?意図的に俺らは知らねえうちに蚊帳の外に出されてんだよ」