妖精の涙【完】
「うーん…そうなのかなあ」
「そりゃ、300年前は争ってたんだからな。当時を覚えてる人はもういねえが、傷跡はまだ残ってんだろ」
以前は政治や国土を巡ってフェールズも含め近隣諸国は争っていた。
ひと段落ついたのが300年前で、それ以来はその争いで亡くなってしまった被害者を弔うため近隣諸国が合同で祭りを行うことになり、始まったのが精魂祭。
その争いから国境の管理を徹底する必要があり、評議会がその任を引き受けている。
…何か引っかかる、とオルドは思った。
「なあ、俺たちはその争いをどう習った?」
「え?えっと…発端は国境を跨いだ窃盗。裁判にかけようとしたもののどう裁けばいいかわからずうやむやになり、結局容疑者は自国で処理されることになった。でも相手国は納得がいかず異議申し立てをしたものの相手にされなかった。そして相次ぐ窃盗に業を煮やした被害者は団体を募り、国境を越え隣国の近くの地区を襲うことでやり返した。それが各地に伝染し、周辺諸国を巻き込んだ戦争とまではいかないけど、小競り合いへと発展したんだよね」
「そうだ。盗る盗られるの連鎖が生み出した結果だ。では、初めはどの国のやつがどの国で窃盗を行ったんだ?」
「…え、習ったっけ?」
「習ってねえと思うけど」
自分の言葉に首をひねる2人にやはり、と思った。
足元に注意しながら話を続ける。
「そう、俺たちは何も詳細を知らされていない。今後のために偏見を持たないよう隠蔽されているのかもしれない」
「まあ確かに、子供の頃からこの国は悪い国なんですーって教わってたらそう思うだろうけど」
「だが、その隠蔽がフェールズ内だけだとしたら?」
「どういうこと?」
「フェールズが他国で窃盗を働き争いの発端になったとすれば国内では汚名ということになり、人伝で伝わることもなければ大人から子供に教えられることもない。話すことすらタブーになったとしてもおかしくはない」
「え、じゃあ…」
「ああ。俺の想像が正しければ、フェールズはずっと裸の王様だったんだ」
なんてこった、とギーヴが深いため息をついた。
しかし考えはまだ続く。
「さらに、相手国がメイガスだった場合は?」
「やめてくれ、考えたくもない」
「俺も同意見だ。考えたくもない…ただ、どうやって終わらせたのか気になったんだ」
「死者が出始めたからじゃなかった?これ以上の血を流す必要はないって」
終戦は300年前。
シルバーダイヤが減り始めたのが1000年前。
「小競り合いに死者が出るのはどう考えてもやり過ぎだ。死者が大勢発生し、争っている場合ではなくなった事情があったように俺は考える」
「おまえ…話が飛躍し過ぎだ」
前を歩いていたギーヴが立ち止まり呆れたように振り返った。