妖精の涙【完】
真相
「おじいさんのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「いや何、困ったときはお互い様よ」
猟師風の老人に見つかってしまった3人は彼の家に招いてもらった。
暖炉を囲むようにして椅子に座り、温かいコーヒーを飲みながらホッと一息つく。
ケイディスがお礼を言うとニカッと歯を見せて老人は笑った。
彼は1人暮らしのようで、4人で入ると少し狭く感じるぐらい小さな小屋に住んでいる。
「おじいさんは猟師か何かですか?」
壁にある弓矢を見ながらケイディスが聞いた。
「猟師でもあり農家でもあるただの隠居じいさんじゃ。自由気ままに生きるのもまた面白い」
「それまでは何を?」
「城に勤めておった」
「だから油断も隙もありゃしねえ感じがすんだな」
ギーヴが顔をしかめてそう言うと老人は愉快そうに笑った。
「お主らもただの人ではあるまい?わしの犬が人間を見つけたと鳴くまで獣がいるんだと思っとったわ」
「なるほど。鳴き声を変えるように躾たのか」
「そうじゃ。間違えて人を殺したくなくての。さて、そろそろ教えていただきたい」
彼は急に真顔になり、近くに置いていたさっきの斧をまた握った。
「お主らはどこのどいつであそこで何をしていたんじゃ?」
ギラリ。
老人の目と斧が同時に光った気がした。
「僕たちは…」
ケイディスが答えようとしたため、オルドが手で制した。
こいつに言わせるのは忍びない。
目の前の老人はいつでも斧を振れるように手に力を込めていた。
「俺はオルド・フェールズ。フェールズ王国現国王だ。単刀直入に言う。俺たちを城まで案内してもらいたい」
「ほほう…?」
老人は面白そうに声を出した。
しかし、斧に手をかけたままだ。
「して、目的は?」
「俺の大切な人が攫われた」
「証拠は?」
「無い。城にいるかどうかもわからないが、攫われた前科があるのは事実だ」
「2度目じゃと?」
「ああ、そうだ」
一切視線をそらさず答えると、老人は考えるように目を伏せた。
「誰の仕業かわかっておるのか?」
「アゼル殿が首謀者ではないことはわかっている。1度目は精魂祭のときだったが、今回は堂々とこちらの城内で犯行が行われたところからして、かなり練られた計画だったと推測される」
「なるほどのう…」
老人は斧を床に戻し椅子に座った。
ゴト、と置いたときに鳴った音が妙に響いて聞こえた。
その様子を見ると、フェールズを嫌っているというわけではなさそうだった。
固唾を飲んで彼の動向を見守っているとギーヴがゆっくりと立ち上がった。
「まだここにいる必要、あるか?俺らは生憎急いでるんでね。じいさんがいなくてもたどり着けんだからここにいる時間が惜しいんだ」
「でも…」
ケイディスが呼び止めるとギーヴは威圧的に眉間にしわを寄せて彼を見た。
そんなギーヴにひるんだケイディスは続きを言うことができず俯く。
そんな2人の様子を見てオルドは決心した。
「悪いが進むことにする。俺たちのことは黙っていてくれ。世話になったな」
「…待ってくれ」
立ち上がりじいさんの横を通ってドアに向かうと反射的にだったのだろうか、呼び止められ振り向くと自分でも驚いたような顔をした老人がいた。
先ほどまでの威勢はどこへやら、猫背で椅子に座っている様子はただの年寄りにしか見えなかった。
「待ってくれ。わしも行かせてくれ」
「は?」
ギーヴはその言い方が理解できず苛ついたように声を発した。
行かせてくれ、と言ったのはなぜなのか。