妖精の涙【完】
小競り合いが終わったのは300年前だが、始まったのはさらに100年前。
今から400年前に起きた事件が発端だった。
1人のフェールズ国民がメイガスで窃盗を働いた。
不法侵入したあげく畑を荒らしたのだ。
当時、農作物の不作が多発し地域によっては貧困に陥っていた。
しかしそれを評議会が重要視しておらず、事件が発覚すると評議会は自分たちの過失を隠蔽するべく裁判はフェールズで行う、とした。
メイガスでもこのまま宙ぶらりんにさせておくわけにいかず了承した。
しかし被害者の農家は納得するわけがなく、他にも同じような事件が発生しても何も対策を練らないメイガスと刑の内容を明かさないフェールズに不満を持っていた。
そして被害者が集まり決起し、フェールズに仕返しをした。
ただでさえ不作だというのに畑を荒らされた地区のフェールズ国民は激怒し、検問所の兵や役員も騒ぎを抑えられず周辺地域は大混乱に陥った。
そしてどういうわけかその騒動が周辺諸国に伝染し、あらゆる地域でにらみ合い、盗み合い、脅し合い…治安は悪化していった。
完全に空気が悪くなってしまったため貿易も止まり、貧しい国はさらに貧しくなった。
唯一フェールズのみが豊かさを維持していたが、この争いの発端は我らにあるとして貿易に関しても籠城した。
このときはまだ死者が発生することはなかった。
そして今から370年程前、伝染病が流行った。
栄養失調と混乱のせいで病原菌が蔓延してしまったのだ。
苦しみも感じないまま目を閉じれば最後、目から血を流してすぐに死ぬ病。
昨日まで元気だった家族が次の日の朝には二度と起きて来ることがなかった現実。
一瞬にして消えていく命に戸惑うことしかできず、治療もままならず、原因も解明されず全地域がパニックに陥った。
その病気のほとぼりがさめたのが今から300年前。
自然に消えて行った病に人々は安堵し、悲しみに暮れた。
以前のように戻っていく日常の中で、病気のショックが大きかったためかこの争いの発端を思い出す者はいなかった…
しかし、この一連の騒動をきっかけに、自国民が犯した他国での犯罪については不可侵となり、裁判をかけず殺してもよいこととなっている。
そのため、あらゆる機関は剣の所持が認められているのだ。