妖精の涙【完】

「じいさんの話が本当なら、その病気のせいで発端が忘れられ今も気にする人がいねえってことか」

「思い出したくないのかもしれん。医術書には病の症状が書かれているものの治療法は無い。また流行れば多くの死者が出るが今まで再発した形跡も見当たらん…大量の死者、病、終戦が誇張された情報として当時の記録が残されておるんじゃろう」

「フェールズの過失は評議会によって揉み消されたが、各国の重鎮は今も尚覚えているものの表では一切口に出さない、と」

「随分虫のいい話じゃねえか」

「だが事実だ」


オルドは老人の話を疑う気はなかった。

身分を知っても殺さず騒がず対応したことに一種の尊敬を覚えていたのだ。


「わしゃ、あやつを恨んどるんじゃ。わしが大事に育てたアゼル様とミレア様を駒として扱おうとしているあやつが…お主らはもちろん知っておろう?先ほどわしは濁したが、妖精のことを」

「ああ…」


老人の握った拳はわなわなと震えていた。


「そのバレスも妖精であることをわしゃ知ったんじゃ。他の妖精と何か悪だくみをしようとしていることを!」

「ちょっと待ってよ!他に妖精がいるって?そんなのあり得ないじゃないか!」


老人の言葉を聞いてオルドもケイディスと同じ意見だった。

妖精はすでに人間界と縁を切り、ラファは取り残された。

他に妖精は契約で生かされているラファとは違いエネルギー不足ですでに死んでいるはず…


「もう隠す必要もあるまい。あの男は乱獲中に羽をもがれた妖精で妖精界に帰ることができず人間界に取り残されたが、シルバーダイヤによってギリギリ生命を繋げているに過ぎんただの老いぼれじゃ。同じように取り残された仲間とコンタクトを取り、仲間も生かしつつ人間界を滅茶苦茶にする算段を考えていたやつは王の子の存在に気づいた」


ティエナが目覚めたのは9年前。

バレスがメイガスに近づいたのが2年前。

しかし、シルバーダイヤの減少が顕著になったのは1000年前。

取り残された3000年前からバレスという男は恨みという執念で今まで生きてきたというのか…


「王の子の行方はしばらく謎に包まれておったが、最近になってようやく見つけたらしいのう…おまえさんらが追ってきたのはその王の子を助けるためじゃな?」

「……」


オルドはここで返事をするか迷った。

このじいさんは知り過ぎている。

逆に怪しくなってきたのだ。


「おまえは妖精じゃねえよな?」

「そんなわけなかろう!」


ギーヴの言葉に憤慨した彼は紛れもなく人間そのもの。

ラファしかきちんと知らないが、経験上、妖精は人間よりも感情が乏しい。

ティエナもどこか空っぽのように感じるときがあった。

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