妖精の涙【完】
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真っ暗な森をロウソクを持って歩く1人の老人。
その口には不気味な笑みを浮かべ、杖をついているもののその歩みは速い。
どこかに向かっているのか、複雑な地形を迷うことなく進む。
そしてとある大きな木の下で立ち止まった。
樹齢がわからないほどの太い幹からは無数の枝が伸び、サワサワと生い茂る葉の擦れる音からは生命の息吹が感じられる。
続々と集まる同胞たち。
暗闇の中に蠢く影が不気味にその木を取り囲んだ。
「皆の者!ついに時が来た!」
老人の言葉に歓喜する影たち。
老人はロウソクを台座ごと地面に置き、ゆっくりと近づき大木の根本にある祠に指輪を置いた。
ずっと握りしめていたため熱くなってしまった指輪は、冷気に晒されあっという間に今度は冷たくなる。
指輪は自ら白銀に発光してみえた。
「祈ろう!天に向かって!」
影たちは無言で跪き、隣の人と指を組んで目を閉じた。
影は皆一応に小さく、動作が老人のようにゆっくりだった。
そして一際大きな風がそこを通り抜けたとき、祠の指輪がより一層白銀に輝き始めた。
その光はまるで、天に浮かぶ月のよう。
光が大木に吸収され全ての葉に行き渡ったとき、空を突き抜けんばかりに一筋の光が木の頂点から放出され、何か壁のようなものにぶつかったのか光はあるところで横に広がった。
「おお…我らの積年の願いが今ここに…」
透明な壁があると思しき空から現れたのは大きな扉だった。
妖精界と人間界を繋ぐ扉。
その扉が3000年の月日を経て、今。
開こうとしている。