妖精の涙【完】
宝物
オルドたちが地下通路の先にあったメイガスの王城にある倉庫にたどり着き外に出るとそこは火の海で唖然とした。
塀の向こう側から人々の悲鳴や怒号が聞こえ、混乱している様子が見えなくてもわかる。
誰も予想だにしなかった事態に老人は目を泳がせた。
「まさか…計画が実行された…なんということじゃ…」
うわ言のように呟く彼を揺すりオルドは声をかけた。
「とりあえず俺たちは彼女を探しに行くがじいさんはどうする?」
「わしゃ…わしゃ…」
「じいや!」
甲高い女性の声が聞こえ振り向くと見知らぬ女の子がボロボロの服をなびかせて走り寄ってきた。
「ミレア様…!ああ、よくぞご無事で…」
今にも泣き出しそうな老人をなだめながら少女はオルドたちを見た。
その強い瞳に圧倒された。
「ティエナさんは3階の角部屋にいますが、城内も混乱しており中を通るのは危険です。あそこに立つ木を登り窓を蹴破る方が得策かと思います」
「君は…?」
ケイディスが聞くと彼女は姿勢を正した。
「私はミレア・メイガス。この国の第1王女です。あなた方の素性はお察しします。それでは行ってください。私だけでは助け出せないのです!」
髪を振り乱して懇願してくる彼女に、言われるまでもない、と強く頷いた。
「ああ。ギーヴ、おまえは彼女から話を聞いてからこっちに来い。じいさんたちはこの通路を使って脱出するんだろう?」
「もちろんじゃとも!」
「この混乱をどうにかしたいという気持ちがあるが俺の力だけではどうにもできない。ケイディスは話を聞いてからフェールズに戻り騎士をこちらに向かわせろ。帰りは通路を使うか馬を捕まえて使うかはおまえに任せる」
「わかった!オルドはそれまで1人で平気?」
「ギーヴもいる。おまえは責務を全うしろ」
オルドは2人をその場に残し言われた木を登り始めた。
剣が邪魔で登りづらいが、今はそんなことを言っている場合ではない。
木に登ると一層外の状況がわかってきてオルドは驚愕した。
…人が飛んでいる。
いや、あれは…
「見つかると面倒だな」
飛んでいたのは武装した無数の妖精だった。
妖精がこちらの世界に流れ込み襲っているとなると、オルドも見つかればただでは済まない。
なるべく葉に隠れるようにして登り、彼女がいると思しき部屋に着いた。
意外と木との距離が近かった窓を剣で突きながらガラスを割り中に飛び込んだ。
カーテンがブチブチと切れる音を聞きながら床に着地すると、固い何かのツタとベッド、そしてベッドの上にある結晶が目に入った。
「なんだこれは…」
ティエナがいると思っていた部屋にある謎の結晶。
近づいてよく目を凝らせばその中に眠る彼女の顔が見えた。
まさかこれに閉じ込められているのか!
そう思い剣の先で突いてみたが傷すらつかず、いったん乱れる息を正そうと深呼吸した。
落ち着け。
焦るな。
ギーヴが戻ってくればいずれわかるはずだ。
とりあえずこれを持ち出さなければいけない。
「どうやって…」
彼だけでは抱えるには大きく、ツルツルと滑るためなおさら無理だ。
ギーヴと運ぼうにも、ここは3階で飛び降りるわけにもいかない。
目の前で死んだように目を瞑るその顔を改めて見たとき、サッと血の気が引いた。
早く来い、ギーヴ!