妖精の涙【完】
旅立ち
彼女はティエナ・メリスト。
17歳になったばかりで、これから王城で働くことになった。
フェールズ王国という豊かな国の端っこにあるフロウ地区で育ったティエナは田舎者で、お金持ちの生活なんて全く想像がつかない。
いきなり王城なんて、と思ったけど、働くことは好きだし知らない世界だから興味はある。
フロウ地区は国花のイエローコリンを中心に栄えていて、名産地ということもあり補助金を受け取っている。
それが無ければ採算が取れない、と言っても過言ではないほどイエローコリンを育てるのは難しい。
彼女もイエローコリンの栽培をよくしていたが、筋がいいのかあまり失敗しなかった。
だから街を離れることになって近所の人には迷惑をかけたものの、彼女の技術だけを欲しがっていたのが見え見えで居心地が悪かったのも事実だった。
はたから見れば、そんな感じだったと思う。
国からの1通の手紙。
彼女の採用通知書。
たまたま拾った新聞に求人が出ていたから応募しただけだった。
どこか知らないところで新しいことをしたい。
その思いだけだったのにまさか採用されるとは…
王城の侍女なんてやりたいと思ってもなかなかできるようなものでもないし、これは何かの導きかもしれないと思うほど、このころの彼女は何かに飢えていた。