妖精の涙【完】
王都までフロウ地区から馬の足で4時間はかかる。
街に来ていたその道の途中まで行くという商人の馬車に乗せてもらい、2時間ほど走った。
着いた街はわりと人が多く、これならすぐに次が見つかりそうだった。
また乗せてくれそうな人を探していると、ぐうとお腹が鳴ってしまった。
そういえば昼に出発してから何も食べていない。
その前だって乗せてくれる人を探し回っていたし逃げ回っていたしで、気づかないうちに体に疲労がたまっていたのだろう。
適当な定食屋さんに入りランチを頼むと美味しそうなホットサンドが出て来た。
この時ほどホットサンドが美味しいと感じたことはなかった。
と言うと、カウンター席の隣に座っていた先客のお兄さんに笑われた。
「いい食べっぷりだと思ってね」
「…いえ」
とたんに恥ずかしくなり、口元についたケチャップを紙ナプキンで拭った。
年齢は20代後半と言ったところか。
いい体格をしたさわやかなお兄さんだった。
「君は何しにここに来たんだい?」
「王都に向かっていて、その乗り継ぎです」
「乗り継ぎ?」
「はい。ここから2時間離れたところから荷馬車に乗せてもらいました」
「それは疲れただろうね。俺だって2時間も乗ってたらケツが痛くなる」
「乗る?」
その言葉に目を輝かせるとお兄さんは首を振った。
なんだ、馬車を持っていないのか。
「悪いね」
「普段は何をされているんですか?」
「城を守る騎士様だよ」
「…なんで休んでるんですか」
と、食べ終わって手や口を拭きながらこちらから聞いておいたのに責めてしまうと、苦笑いをされた。
「騎士にも休暇は必要さ」
「それもそうですね…」
そういうものか、と思いつつ、私だったら休みの日は外に出て風にあたりながら日陰で読書をするな、と思った。
読書は好きだ。
誰にでもなれるし、どこへだって行けるし、なんでもできる。
登場人物になりきったつもりで読むと心が弾むのだ。
「まあ俺の場合は馬車じゃなくて1人乗りだから、非番でなくても連れては行けなかったよ」
「…そうですね」
よく考えればその通りだ。