妖精の涙【完】
生きづらいと思ったことはない。
でも、生きていて辛いと思ったことは多々あった。
「…私は生きている意味が欲しかったんです」
繰り返される同じ日々に意味があるのか。
イエローコリンを育てる日々。
育てるのは好きだった。
でも次々といなくなっては花を咲かせまた出荷される。
そのうちイエローコリンをただの物としてしか見られなくなるんじゃないかと怖かった。
お金には興味ない。
せめて。
どんな人が自分のイエローコリンを買うのか見たかった。
どんな顔をして。
どんな理由で。
ずっと聞いてみたかった。
「意味は自分で見つけるものだな。俺からは何も言えない」
「はい…わかっています」
「だが、おまえは俺の生きる意味の1つに含まれている」
そのときは彼が何を言っているのかよくわからなかった。
「おまえは国民の1人だ。国のため国民のためと言われても正直ピンときていない俺はまだまだ未熟者だが」
誰かが誰かの生きる意味になっているという。
「少なくとも兄弟が支えてくれる…人間は1人では生きられない。必ず誰かと出会い、話し、笑い、怒り、泣く。野生動物ほど強くはないが軟でもない、多くの関係を築き寄り添い生きていく不思議な生き物だ。その誰かが家族か、友人か、先人か…または別の生き物か、あるいは物かは人それぞれだ」
イエローコリンを育てることが生きる意味になっていたのだろうか、と考えたがきっと違う、と感じた。
今となっては何が苦痛だったのかわからなくなっていた。
両親から虐待を受けていたことか、消えていくイエローコリンを幾度も見送ったことか。
自分の感覚はもう麻痺しているのだろうか…
そう言えば、イエローコリンに謝ったことはあるのに両親に謝ったことがないな、と思った。
こっちに来てからは自分の失敗に謝ってばかりだけど…
なんでだろう…
「…ん?」
混濁していく意識の中、隣で笑ったような声が聞こえた。
「おまえも寝るのか」
しょうがないな、と。
頭が彼の大きな手でそのたくましい肩に引き寄せられた。