妖精の涙【完】
*
これは夢だ、と気づいたのは何がきっかけだっただろう。
私は以前暮していた家の中にいた。
誰もいない。
外に出ても誰もいない。
静かな世界がただ広がるだけ。
畑に向かうと一面に咲いているリトルムーン。
でも出荷されることはなく、ずっと咲いていた。
風に揺れて頭をゆらゆらとさせるだけ。
ゆらゆらと。
ゆらゆらと。
穏やかだった。
しかし、リトルムーンは枯れた。
揺れていた頭は項垂れ変色した花びらが落ちていく。
なぜ君たちは咲いていたの?
枯れるため?
こんな誰もいないところで?
…そっか、と気づいた。
君たちは誰かに見てもらうことが生きる意味だったんだ、と。
私だけでなく、もっと多くの知らない人に。
それを知らずに私は謝っていたのだ。
私は見てもらいたいと願うイエローコリンの手助けをしていたのに。
そのリトルムーンを見る人の顔を想像してももやがかかってわからない。
でもリリアナ様は好きだと言ってくれた。
1輪の花を見ていたときの表情はどんなだっただろう。
どんな眼差しだっただろう…
「…ごめんなさい」
想像できなかったのではなく、想像しようと思ったことがなかっただけだった。
どんな顔をして買い、どんな理由でリトルムーンを買うのか。
勝手に悲観的になっていた。
きっと笑った顔で、自分を含め誰かを笑顔にさせたくて買っていたんだ。
珍しい小さな薄黄色い花を見せたくて買っていたんだ。
イエローコリンの花言葉は平和の象徴、祝い。
リトルムーンの花言葉は…
「宝物」
誰かが耳元で囁いた。
振り返っても誰もいない。
でも、そうか。
宝物か。
「私の小さな月」
あなたは私の宝物。