妖精の涙【完】

雲行き



物凄く大きな音がした気がして起きると、ティエナはオルドに肩を掴まれた。


「立つな」

「え、あ…!」


雲が真っ黒に染まっていた。


「雷が鳴っている。これから雨が降るだろうから帰るぞ」


あんなに綺麗に晴れていたのに!


「行くぞ」


と、オルドと一緒に2人を起こして急いで馬に乗った。


「なんでこんな天気になってるのさ!」

「知らないわよ!」


ここは山の頂上付近で、下の方を見てもよく見えなかった。

完全に雷雲に囲まれている。

山の天気は変わりやすいのだ。


それからしばらくすると雨が降ってきて地面が滑りやすくなり、馬を走らせるわけに行かなくなった。

ゆっくりと下山していくも行きで1時間ぐらいかかったのだから、今も行きのペースとあまり変わらないためそれぐらいかかってしまうことになる。


ゴロゴロと雷の音が響いてくる。

空を見ると、無数の光る紫色の白蛇が鋭利にジグザグと動いているようだった。

その蛇たちが猛スピードで1か所に集まったかと思うと、ピカッと光り雷鳴が轟く。


「寒くないか?」

「はい!」


毛布を掴みながら返事をした。

雨と気温で手はかじかんでいるものの意識ははっきりとしていた。

でもさっきまで走っていたせいか下半身が痛かった。


「これ絶対死ぬやつ!」

「そんなこと言わないで!」


2人が言い争う声が後ろから聞こえてきた瞬間。

バリバリバリ!

すぐ近くに雷が落ち木が割ける音が聞こえ、それに驚いた馬が暴れオルドたちの身が投げ出された。


あ、と思った瞬間目の前に稲光が映り込み意識が遠くなりティエナは目を閉じた。


しかし、走馬灯は見なかった。




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