妖精の涙【完】
「こ、こは…」
「無理に話すな」
硬いベッドに降ろされ緩められた毛布から顔を出して周りを見た。
長いテーブル。
2脚の椅子。
水道。
暖炉…
必要最低限のものは全て揃っているようだった。
「ここは俺の隠れ家だ」
隠れ家…
「たまに掃除しに来た方が良さそうだな」
オルドが湿気たマッチを何度も折りながらも薪に火をつけた。
暖炉が明るくなり部屋も明るくなる。
「以前はよく使っていたが最近は使っていない」
戻ってきたオルドはティエナから濡れた毛布を奪い、ここにあった別の埃っぽい毛布でくるもうとしたがその動きを止めた。
「…本当は脱いだ方がいいんだが」
濡れた服でどんどんと奪われる体温。
血液も足りないこの状況ではいずれ低血糖、低血圧になりもっと危険になる。
朦朧とし始めた意識の中彼女は腕を伸ばし彼の袖を握った。
「かまい、ません…」
ちょうど体に密着するこの服の感触も不愉快だったのだ。
「…俺がやるんだぞ」
確認するように見つめられたが頷いた。
「わかった。なるべく見ないようにする」
わずかに伏せた彼の目を確認してから目を閉じた。
正直つらい。
体が鉛のように重く、頭もぼーっとしている。
息をするのも疲れるのだ。
優しい手つきで次々と鬱陶しい服を剥がされ呼吸も楽になっていった。
しかし、体を傾けられたときわずかに彼の手がピタリと止まり、なんでもなかったかのようにまた動いた。
ああ…
きっと見てしまったんだ。
彼女には消えない傷がある。
大きな傷が背中に。
普段は服で隠せるのに。
母親に草刈り用の鎌でばっさりと斬られた傷。
…隠しきれなかった。
そのことに呆然としつつも涙は出なかった。