妖精の涙【完】





「体罰の分と剣の稽古の分、襲撃されたときの分の傷がここにはあるんだ」


なんでもないようなことのように淡々と話すオルド様。


「リリアナが以前怖がったから俺は一緒に風呂に入ったことはない」


そう言えばケイディス様がリリアナ様と一緒にお風呂に入ったことがあると今朝言っていた気がする。

でも今はそんなことどうでもよかった。


「…眠ったか?」


何も言えないでいるとふいに音が近づいてきて顔を覗かれた。

整った顔が迫ってきて恥ずかしくなった。

こんな涙でぐちゃぐちゃな顔、見られたくない。


「見ないでください…」


見られたくなくて、見ていられなくて下を向いたがオルド様は離れてくれなかった。


「勝手に全部話してご満足ですか」


こっちの気も知らないでペラペラと。


「え、いや…」


そんな困った顔されてもこちらが困る。


「オルド様は過ぎたことだと思っていらっしゃるかと思いますが、何も知らない人が聞けば誰だって悲しくなります」


言ったそばから嗚咽を抑えられなくなりいろんなところが苦しかった。

鼻も。

息も。

心も。

私の全てが。


「苦しいだろう、起こすぞ」

「えっ」


いきなりそう言われてゆっくりと体を起こされた。

みのむし状態の私はいとも簡単に抱き起こされ、何を思ったのか頬に手を添えられた。

少し冷たくてわずかに避けたはずなのに押し付けてくるから逃げられなかった。


「熱があるな」

「いいえ、元気です。眠くありませんし、寒くもありません。きっと泣いているからです」


誰かが天然タラシだと言っていたのを思い出した。

焦って早口に否定したのにまだ見てくるから視線を外すために下を見たのに、あまり効果はないようだった。

正直この状況は誰かに見られたら誤解を招くレベルだ。


「いや、だが…」

「じゃあ見るのやめてください!熱じゃないんです!」

「言わなければわからない」


彼も少し強い口調で問い詰めてきて、さっきよりも強引に顔を向けられもう限界だった。

見つめてくる闇色の水晶に吸い込まれるような感覚だった。

目を離したいのにできず、さっきは冷たかった手のひらが私の熱で温まっているのに気づいてもう頭の中はパニックだ。

近い!

いいから離れてほしい!

今の体勢と恰好を自覚して!


「もう頭おかしいんじゃないですか?!」


そう言ったとき意識がプツンと途切れた。




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