妖精の涙【完】
暗闇
最初に目を覚ましたときリリアナは喪服姿だった。
必死に彼女の言葉に耳を傾けていると疲れて聞いていられなくなりいつの間にか意識を手放した。
それでもリリアナは根気強くティエナの調子を見ながら一生懸命に話した。
ティエナとオルドが帰還したとき。
雲間を割いて零れた太陽の光を浴びながら馬に跨ったまま城門をくぐり、心配した騎士たちが群がるのも制して彼は堂々としていたそうだ。
馬から下りて抱えていたティエナをケイディスに預けるときにかけた言葉。
「…すまない」
その頭を名残惜しそうに軽く撫で、振り返った彼の顔つきはもう変わっていた。
「我を誰だと心得る!」
その言葉に一斉に敬礼した騎士。
再び黒馬に跨り剣を空に突き上げたときの正装姿の彼の背中は大きく、儚く見えたそうだ。
「フェールズ王国国王、オルド・フェールズである!前国王の遺志を継ぎ、この国を導かんとする者!」
それに続き次々と剣を掲げ歓声が上がった。
城内に響き、空気を震わせ、それは城下にまで広まった。
彼女はその後すぐに医者に診てもらい、頭の出血はすでに止まっており感染症の可能性も低いだろう、ということだった。
ただ出血による貧血が酷く、体力が回復するまでに時間が必要だと言われた。
薬を服用してもらいうとうととする毎日。
薬の副作用か、食欲もあまりなかった。
「あの…リリアナ様。お薬はどちらにございますか?」
「食欲ないのも体に悪いからしばらくはやめときましょ」
「でもお医者様が…」
何日か経ってからそんなことをいきなり言われ困惑した。
医者の言うことに従った方がいいと聞くのに、リリアナは独断で飲ませてくれず、仕方なくそのまま眠りにつき、3日もするとようやく食欲が回復しお通じも良くなった。
「とんだ藪医者ね」
人間なんて薬はあんまり必要ないのよ、とぶつくさと言っていた。
お手洗いに行く回数が増えたことであまり動かしていなかった足腰も動きやすくなっていた。
「リリアナ様、ありがとうございます。ずっと看病をしていただいて」
侍女として恥ずかしい、と言うと首を横に振られた。
「当たり前でしょ?あたしの半身なんだもの」
半身と言われて胸がグッとつまった。
そんなに大事に思っていてくれていたとは思っていなかったのだ。