妖精の涙【完】
「それにほら見なさい。ティエナが倒れてからあっという間に咲いたわ」
「はい。とても綺麗です」
そう。
ティエナの部屋にはイエローコリンが飾ってあった。
とても大きな花だ。
自分のことを半身だと言った言葉が本心であることがこの花を見ればわかる。
「ティエナ、そろそろお風呂に入りましょう。やっぱり拭くだけじゃ不衛生だもの」
「そうですよね…」
臭うだろうか、と思ったが髪の毛もどうしても傷んでしまっており、枝毛も目立つ。
綺麗さっぱり体を清めるべきだと思った。
「今は真夜中だし、廊下はあまり人がいないはずよ」
「私は見られてもあまり気にしませんが」
「ダメよ。あなたはもう有名人なんだから」
「ゆ、有名…?」
「登場が派手過ぎたのよ」
オルドお兄様に抱えられたあの娘は誰だ、って大騒ぎよ、というリリアナの言葉に背筋が凍った。
なんということだ。
ケイディスの懸念が違う形で表れてしまったのだ。
「タイミングが悪かったのよ、何もかも」
諦めなさい、と諭されても全く心が休まらなかった。
これでは以前のようにリリアナのお世話ができない。
「まあ、あたしは諦める気はないけど」
と、おもむろに取り出したのはハサミだった。
「大丈夫よ、あたし髪いじるの好きだから」
チョキチョキとわざと見せつけてくる。
「それは…」
もしかしなくても、まさかだろう。
「ちょっと短くするだけ。イメチェンよイメチェン」
…ここは信じるべきだろうか。
「じ、自分でできますので…」
散髪なんて以前は自分でやっていたが、最近伸びてしまったのはなかなか手入れをする時間が取れなかったからだ。
肩ぐらいの長さの髪を切ってイメージを変えようとするともっと短くなってしまう。
「あたしがやるわ。ほら目を瞑りなさい」
タオルを首に巻いたり膝の上に広げたりして準備万端の彼女を前にし、もう抵抗する意思はなかった。
「切り過ぎないでくださいね」
「わかってるわよ」
こうして切ってもらい、誰にも会わずにお風呂に着くと早速鏡を覗いた。
そこにはやつれて元気がなく短い髪の頭になった自分が映っていた。
「いい感じだと思わない?」
お風呂上がりで気分がさっぱりしているところで、リリアナがティエナの髪をいじりながら得意げに言った。
正直に頷くと、あたしってやっぱ天才、と調子に乗っていた。