妖精の涙【完】
「最近はずっとここに缶詰めだから参っちゃうよ」
僕の言葉にオルドがまた何かを言う前にすかさず話題を変えるとギーヴが頷いた。
「だろうな。こんなときにちょうど精魂祭があんだろ?」
「そう。なんで5年に1度なのにこうも被るかね?」
僕はため息をついてオーバーに肩をすくめた。
以前は政治を巡ってフェールズも含めて近隣諸国は争っていた。
それがひと段落ついたのが300年前で、それ以来はその争いで亡くなってしまった被害者を弔うために近隣諸国が合同で祭りを行うことになり、その祭りの名前が精魂祭。
精魂祭は3日間行われ、その間は出入国の検問は無くなり自由に行き来できるようになる。
喧嘩も犯罪もせず3日間を終えることに意味があり、この69回の間にそういったものは報告されていない。
多少はあったのかもしれないが、予想通りもみ消されたと考えていい。
「記念すべき70回目だし、何事もなければいいんだけど…」
しかし問題児はつきものだ。
メイガス王国。
最もフェールズと仲が悪い国。
「最近のメイガスはどんな感じ?」
「2年前に即位した新米国王が頑張ってる感じだな」
「ああ、そう言えばそうだったね」
2年前に即位したにも関わらず、当時は手紙だけ寄越して挨拶にも来なかった新米国王か。
黄金世代なのかな。
その新米国王も今年で25歳だ。
「オルドの挨拶は精魂祭のときにするって参加国に通達したから、僕たちはその辺はばっちりにしておいた」
「賢明だな」
「それで、おまえは何しにここに来たんだ」
まさか雑談じゃないだろう、とオルドが僕たちの会話をいきなりぶった切るとギーヴは手に持っていたティーカップをテーブルに置いた。
中は空だった。
確かに、と僕も頷くと彼は1枚の紙を懐から取り出した。
それを僕が受け取る。
「…あったかい」
「悪かったな」
思わず言うと彼は眉間にしわを寄せた。
「先に前置きをしておくが…」
ギーヴは難しい顔をしながら言った。
「俺はおまえらの妹の犬だ」