妖精の涙【完】
「そろそろ本題に入れ」
オルドのため息で我に返った。
そう言えばこの手紙には何が書かれてるんだろう…?
「ティエナ・メリストが受けた治療についてがそれに書かれている」
「何でそんなものをわざわざ?」
「いやなに、俺はおまえたちの味方だっていうのを示しにきただけだ。開けてみろ」
嫌な予感しかしない、と思いつつ開こうとすると僕の手をオルドが止めた。
「その前に聞きたい。リリアナの犬になったのはいつだ」
「…8年前だな」
わあ。
犬って聞いちゃうんだ。
…ていうか、8歳にしてそんな先のことをあの子は考えていたんだと思うとやるせない気持ちになった。
「リトルムーンのことは?」
「3年前だな」
「ティエナがここに来るまでにブランクがあるようだが」
「んー…俺にんなこと言われてもな。リトルムーンを栽培してたあの子がまさか志願するなんてそのときは考えてなかったしな。たまたま仲間にフロウ地区から志願者来てるんだけどおまえフロウ地区詳しいよな?って言われて書類見たらその子で俺がビックリしたぐれえだ」
「ちょちょちょっと待って。ティエナがリトルムーン育ててたの?」
「なんだ、知らなかったのか?」
「初耳だよ!」
僕に反してオルドは全く驚いていなかった。
…それよりもなんか怒ってる?
「…そうか、わかった」
「オルドはケイドよりも知ってることが多そうだな、顔を見ればわかる」
「…黙れ」
また変な空気になってきた。
「なぜ彼女を助けなかったのか、って?」
「……」
「証拠がなかったんだ。私情で服を脱がせるわけにも夜中に突撃するわけにもいかねえだろうが」
「いったい何の話…?」
「本人から聞け。話はそれからだ。おまえだって立場をわきまえろ、オルド。もう周囲の目を気にせず暮らせる日々は終わったんだ」
そう言い捨てて執務室から出て行ったギーヴ。
オルドは僕の隣で拳を握って俯いたままだった。
「…開けるね」
一言かけてから手紙を開いて読むと吐き気がしてきた。
そこには薬の成分や量が記されており、健常者でも飲んだら病気にされそうな内容だった。
空白には手書きの文章があり、リリアナに頼んで薬を飲ませないようにしたことや昨晩からやっと調子が以前に近づいてきた、ということが書かれていた。
でも正直、一番嫌な気分にさせられたのはそこじゃない。
「妊娠、検査薬…」
無意識にそう呟いてしまった。
手が震えて紙にしわが寄った。
隣をもう、見られなかった。