妖精の涙【完】
ギーヴは評議会の役員で、父親も評議会に所属している。
父親の影響でエリートとして育てられ、ちょうど同じ年だったオルドとケイディスとは一緒に勉強や鍛錬をしていたらしい。
弟と妹がいるせいかお兄さん気質で自然と2人の面倒もみるようになり、特にオルドからはライバル視されていて上から目線だとかでよく口喧嘩をしたそうだ。
リリアナが生まれてからはお世話の仕方を教えていたらしく、それを知らなかった彼女が話の途中で怒りだしたもののなんとかおさめた。
彼がオムツを替えていた、と思ったらしい。
そしてちょうど10年前、成人する前に評議会に入ることになり2人とはそのときから会っておらず、各地区を渡り自分の目で今この国がどうなっているのかを見て回っていた。
リリアナは8年前に彼の存在を知り手紙を通してやり取りをしていたため今回会うのが初めてだった。
特に言われなかったが、イエローコリンの種をもらっていたことから考えると城の外の情報を集めるために文通していたんだろう、とティエナは思った。
そして今回城に戻る気になったのはオルドが即位したからだった。
「じゃあ何、あなた家出してたわけ?」
「まあそうなる。家に帰ったってうるせえだけだし、城に帰ったって親父の荷物持ちになるだけだったからな。親父は手元に置くつもりだったみてえだが俺はもう言いなりになる気はねえよ」
「それまでは言いなりになってた理由は?」
「子供のうちは親の前では非力だからな。成人したらどっかに逃げてやろうかと思ったが、その前に評議会に入れられちまったし。まあ俺なりの悪あがきだな」
「へえ、そうなの」
疑うような目で見るリリアナの様子を見る限り、まだ言ってないことがあるように思う。
話に夢中になりすっかり冷めてしまった紅茶を飲みながら横目で彼を見たが彼女の態度をあまり気にしていないようだった。
「お兄様たちを心配して逃げずにこの機を待っていたんだと思ってたわ。やっと帰る気になるなんてどういう風の吹き回しだ、って周囲に思われても仕方のない行動よ」
「そうかもしんねえけど、俺だってただ旅みたいなことをしてたわけじゃねえよ。ちゃんと仕事はやってたさ。手紙にも細かく何やってるか書いてあげただろ」
「まあ、そういうことにしておくわ」
「あ。ありがとうございます」
リリアナが紅茶を新しくそそいでくれたためお礼を言った。
その様子にギーヴが苦笑した。
「これじゃどっちが主で僕かわかんねえな」
「しもべ、なんて言わないでちょうだい。それに彼女はまだ病人よ」
「仮病の間違えじゃねえの?いつまでここにいる気だよ、さっさと働き始めてオルドの仕事っぷりを確認するべきじゃねえのか」
説教めいたことを言われリリアナは憤慨したがティエナは怒らなかった。
むしろ言われて当然だと思った。
いつそのことを彼女から言われるか、と思っていたが代わりに彼が言ってくれてかえってよかったのかもしれない。
膝の上で拳をぎゅっと握った。
そしてリリアナを見上げた。
「…私、やります。リリアナ様、これまで通りよろしくお願いいたします」
「ちょっと何言ってるのよ。あなたまだ体力が…」
困惑した目で見られたが首を横に振った。
「いいえ。もう十分休みました」
同じ事故にあったオルドはもう働いているのに自分だけおちおちここで寝ていられない、という気分に突き動かされた。
今まで経験したことのないような手厚い看護を受けられてもう満足だったのだ。
起きれば誰かがそばにいる。
山小屋ではオルドが。
自室ではリリアナが。
それぞれいてくれた。
それだけで泣きそうだったのだ。
「頼まれていたリトルムーン、まだ育てられていませんし」
「…おまえにとってリトルムーンは何だ?トラウマじゃねえの?」
いきなりそう聞かれこの人は本当に自分のことをどこまで知っているのか、とティエナは思った。
一度目を少し長い間閉じてから彼の目を見てしっかりと答えた。
「かけがえのない宝物です!」