妖精の涙【完】
「あの人また来るって言ってましたね」
「もう来なくていいわよ!せめてあたしの部屋に来てほしいわ」
「…た、確かに」
ごもっとも、と深く頷いた。
よく考えればここはティエナの部屋だ。
最近人の出入りがあってすっかりそのことを忘れていた。
あの後、ギーヴは話が終わったとみなすと早々に退室していった。
「何か伝えたいこととかあげたいもんあったら言ってくれ」
と去り際に言われたがすぐには思いつかなかった。
何を言ったところで意味がないと思ったのが原因かもしれない。
オルドが自分の言葉を聞いて何かを感じるとは思えなかったのだ。
「じゃあ外出許可がほしい!」
「あ?もらえると思ってんのか?」
即答したリリアナに対して不機嫌そうに彼が答えると、彼女はその言い方にむっとしたようだった。
「難しいことなんてわかってるけど、服が欲しい」
「そんなのいつもオーダーメイドだろ」
「あたしのじゃなくて、ティエナのよ。精魂祭で着られる服が欲しいの!」
「まさか一緒に買い物に行きたいとか言わねえよな?」
精魂祭?と思ったが話を邪魔する気はなかったからスルーしておいた。
あとでリリアナに聞こう。
「そのまさかだって言ったら?」
「その言い草だと精魂祭も一緒に回りたいとか思ってんだろ?」
「そうよ」
「許可が下りた場合一番あり得んのは俺も同行することだと思うが、それでもいいのか?」
「なんでそんなに突っかかってくるのよ?」
「おまえの兄2人はイケルド公国に期間中は滞在しないといけない決まりになってっから、その間ずっとフェールズを留守することになってんだ。つまり、おまえのそばにすぐにかけつけられないんだぞ」
睨みあっている2人には悪いが、ギーヴのお兄さん気質を垣間見ている気分でティエナはあまり悪い気はしなかった。
リリアナのことを大事にしているのが伝わって来る。
「精魂祭はいざこざを起こさない決まりになってるんだから何も起こらないわよ」
「そうとも限らねえから言ってんだ」
「もうなんなのよ!前回だってあたしずっとお留守番だったのよ?城の窓から見る小さい花火と賑やかな街なんてもうまっぴらなの!」
「だから俺がついて来るけどいいかって聞いてんだ」
「いいわよそんなの別に!」
「お、言ったな。あとで文句言うなよ」
「言わないわよ!」
…本当にいいんだろうか。
この光景を買い物中も見ることになると余計に疲れそうだと思ったがリリアナには黙っておいた。
回想に耽っていると同じところを思い出していたのか、リリアナがため息をついた。
「あー、なんか思い出してたら腹が立ってきた」
「リ、リリアナ様。精魂祭について教えていただいてもよろしいでしょうか?あまり知らないので…」
「そうなの?精魂祭っていうのは…」
無事に気分を変えられたことに安堵しつつ、オルドに本当に伝えたいことはないのか、と考えていたのだが人伝で伝えたいことはないことに気が付いた。
そうか、直接会って言わないと意味が無いんだ。
ありがとう、は。