妖精の涙【完】
「相変わらず人が多いわね」
「はぐれんなよ」
午後3時となり、王女とは気づかれないがちょっとした貴族に見えるような恰好のリリアナに連れられいざ門の外に出ると、今までは窓の外にあった景色が目の前にあって感動を覚えた。
まるで絵画の中に来たみたいだ。
こんなに活気があったなんて、ここを馬車で通ったときは気づかなかった。
あのときは今よりも余裕がなかったからかもしれない。
「ティエナに言った方がいいんじゃない?」
「…まあ、好きにしてやればいいじゃねえか。人生初っていうぐらいの体験だろ?今日は」
立ち止まって人の往来をじっと眺めているティエナの手を取りリリアナは呆れたように言った。
「迷子になるわよ」
「…かもしれませんね」
素直に認めてへらっ、とだらしなく笑うと肩をすくめられた。
「さて行くか。目当てはティエナの服だ。寄り道ありの俺コースだが退屈はさせねえよ」
「お手並み拝見ね」
彼の言葉の通り、行く先々のお店はどこも素敵で気に入ったものがあれば買っていいと言われていたが思考回路が麻痺して逆になかなか買えなかった。
洋服屋ももちろん行き、装飾品のお店にも立ち寄った。
途中ギーヴがいろいろと買っていたのを見て聞いてみると、家族宛だという。
「最近は全く会ってねえからな。生存連絡みたいなもんだ」
と、照れ隠しにそう言われた。
なるほど。
プレゼントか。
ふむふむ、と頷いたが、プレゼントという響きに心がうずいた。
誰かにプレゼントをしたことがこれまでなかった。
確かに以前までは不特定多数の人にプレゼントを与えていたと考えられなくもないが、そういう気持ちは全くなかった。
…押しつけがましいだろうか。
無意識に男物の小物にも目がいっていた。
「お嬢、まだ続けるか?」
「お嬢なんて呼ばないでちょうだい」
ふいにギーヴがリリアナに声をかけるのが聞こえた。
立場上名前を呼べないためティエナはお嬢様と呼んでいるのに、彼はからかってお嬢と呼んでいる。
リリアナの反応を楽しんでいるみたいだ。
「雲行きが怪しくなってきたみてえだ」
彼の言葉につられて窓の外を見ると、確かに暗い空が広がっていた。
リリアナもそれを確認したが、ティエナの様子を見て首を横に振った。
「雨降ったって買い物はできるわよ」
「まあ、そりゃそうだ」
そう言うとさっと離れたギーヴは外に出てお店の前で待機することにしたようで、優柔不断なばかりに時間がかかってしまっていることに申し訳なく思った。
どれも素敵な服ばかり。
でも…自分には派手過ぎる。
"明るい色の方が似合うと思うんだけれど"
ふと、かつて言われた言葉を思い出した。