妖精の涙【完】


"まだまだ17歳なんだから、いろいろな色の服を着てみると楽しいと思うな。ピンクなんてずっと着られる色でもないんだから"


いやいや、やっぱりピンクなんて着られない。

明るい色なら…


「ティエナ。何か決まった?」


精魂祭の時期は寒いと聞いているためコートを含め温かそうな服を探していたのだが、ふと目に入ったコートを手に取ったときにリリアナに声をかけられた。


「え、えっと…」


つい口ごもっていると、持っているコートをひょいと取り上げらる。


「あっちで試着できるから行きましょ」

「あ、あの…まだ決めたわけでは…」

「決めるために試着するの。着たから買わないといけないっていう決まりはないんだから大丈夫よ」


ああ、本当に。

彼女には考えがお見通しだ。


試着室に連れられ、今着ている黒いコートを脱ぎ、あえて鏡には背を向けてそれを着てリリアナの前に出ると絶賛された。


「いいじゃない!サイズもぴったりね。これを買いましょ」

「い、いいんでしょうか…」

「あなたが買わないならあたしがあなたに買うまでよ」


うんうんと大きく頷きながら言うリリアナになんて強引な、と思ったがもう手放す気はない、と思っている自分もいた。

ワインレッドのコート。

明るすぎず暗すぎない色合いだった。

でも恥ずかしくて着た自分の姿を鏡で確認せずにそっと脱ぎリリアナと共にお会計に向かった。


「上機嫌だな」

「当たり前じゃない」


外で待っていたギーヴと合流するとそう言われ、リリアナが答えた。

彼女が答えてしまったが、明らかにさっきの言葉は自分向けのもので、ギーヴは気にせず歩き出してしまったがティエナは自分の頬に手をあてた。

笑ってたんだろうか…

ちょっと口角に違和感が残っていた。


そしてもう1軒洋服屋に行き、調子が出てきたためそこで茶色いブーツを買った。

温かそうなブーツで冷え性のティエナにはぴったりだったが、普段履きには向いていないため精魂祭以外は出番がないかな、と少し残念に思った。

今度はコートの下に着る服を買おうと思い次のお店に行くと、残り1時間になっていた。


「1つのお店で一気に買ってもいいのよ?」


そんな非難めいたことを言われたがティエナは気にしなかった。


「そうなんですけど…本当にピンと来るものが無くて」


女の買い物は時間がかかるという言葉をようやく実感した。

わりと好き嫌いが激しいらしい。

嫌いというか、どこか違う、という感覚。

これよりもいいものがあるんじゃないかと思うと取ろうとした手が引っ込み、何か違うと思えば試着しても戻した。

それを繰り返した結果が今の状況だ。


「まあ、時間はまだあるんだが…残り1軒になった」

「あら、準備不足なんじゃなあい?」


間延びした口調でリリアナが言うとギーヴは困った顔をした。


「違えし。この街にある最後の洋服屋だ。そんな何個もあるわけじゃねえんだよ」

「それは残念ね…ティエナ。もしやっぱりあれが欲しかったっていうものがあったらギーヴに言えば後日手に入るから遠慮なく言ってちょうだい?」

「おまえは俺に遠慮しろ」

「あ、大丈夫ですけど…もしかしたら言うかもしれません」

「ああ、遠慮なく言えよ」

「…あなたの態度、むかつくわね」


そこからはまた口喧嘩が始まった。





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